そして今、
櫻澤は複雑な心境で眼の前のソファで眠りこけている人物を眺めていた。
振り回されっぱなしの3日間だった。
見た目とのギャップに驚かされた。
意外に図太くて、でも神経の細かいところもあって、
頭の回転も良くて、話していて楽しかった。
男なのに、そこら変の女より綺麗で、でも男なんだよな。
ほんと綺麗だなぁ、こんなの創るなんて神様もセンスいいよなぁ。
唇もぽてっとしていて女みたいに柔かそうだ
迂闊な思考に歯止めが掛からないほど櫻澤は酔ってなどいないはずだった。
しかし、その薄い皮膚の感触を知ってみたくなるほどには、
眼前の人物の容姿に惹かれていた。
“触ってみるくらいなら・・・・・・眠ってるし”
いまだにこの人物が自分と同じ性であることが信じられない。
だけど、そうすることでそれが確かめられるのかも知れないなどと、
どこか頭の隅で自分の行為を正当化するような考えが浮かんでくる。
と、櫻澤が同居人に覆い被さり、唇がもう一呼吸で触れるというところで、
櫻澤にとって最悪な事態が訪れた。
ソファで寝られては自分の寝る場所がなくなると、
必死で起こそうとしたときには梃子でも動かなかった同居人が、
不穏な気配にパッチリとその大きな眼を開けたのである。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「何? あんた俺にキスしたいの?」
「わ〜〜〜〜〜〜!!!! 違う違う、見てただけっ!」
吐息が直に唇に届くほどの距離でそう囁かれ、
「見ていただけ」の言い訳は効かないだろうと思いながらも、
そういい返すしかない櫻澤に、
同居人は少し焦点の定まらない曖昧な瞳で言った。
いいねぇ。接吻しようか。
嘘偽りのないような。
本当に手が届きそうな。
溶けてこのまま夢の中に行けるような。
「そんなキスできんの?」
「もしかして酔ってる? い・いや、寝ぼけてるの?」
しかし、自分が今まで経験してきた恋愛を、
今、この人に覗かれたような
そんなものは本当じゃないと否定されたような
そんな気がして、何だか悔しくて、わけも分からず悲しくて、
じゃ、あんたはそんな恋をしたことがあるのかと、知っているのかと
聞き返す代わりに、
櫻澤は気がついたらその唇に接吻をしていた。
薄い皮膚の感触。暖かな体温を感じる。
鼓動まで分かる距離。
彼は見ていた、櫻澤を。
じっと。
透き通った瞳で。
何もかも見透かされそうだった。
“目を閉じろよ、この野郎。閉じろったら”
目の前の瞳は、櫻澤の何かを狂わせそうだ。
“そんな瞳で見て、俺の何かが分かるっての?
閉じろったら、閉じてくれよ”
深くなりそうな接吻に戸惑いながら、
目の前の瞳が次第に閉じられていくのを見て、
櫻澤の瞳もまた、自らの内側を見るために閉じられていった。