hyde氏はビビリである。
『リング』や『バースディ』なんか読んじゃうのにビビリである。
『オーメン』や『ゾンビ』なんか感心して観てしまうのに超ビビリである。
特に映画は、そこから来るあの手この手の視覚的・聴覚的刺激にめっぽう弱く、
オカルト好きが映画を観れば、
『そら、その空間、その視点、この間合い、ほらほら絶対出てくるよ』
というタイミングが分かっているにもかかわらず、
実際出てくると飛び上がるほどの超〜ビビリだ。(しつこい)
そして今、hyde氏は貸しスタジオの入っているビルの前に1時間佇んでいる。
時計を見ると真夜中の2時。
2時はこの世とあの世が一番繋がりやすい時間らしい。
そんなことがあるはずがないと思いはするのだが、繋がりやすいらしいのだから仕方がない。
真夏の夜、熱帯夜だ。
程よく湿気を帯びた空気が、ねっとりと身体に纏わりつく。
スタジオの鍵は持っている。
裏口に回れば、警備のおっちゃんがビル内に入れてくれるだろう。
でも、『携帯忘れたんですけど、怖いんで一緒に来てくれませんか』
なんてことは大の男の大人(でなくても)には言えない。
それ以前にラルクのhydeが、たとえ警備のおっちゃんにであってもそんなこと言えるわけがない。
「あ〜、あんな話、聞かなよかった」
hyde氏は数時間前にyukihiroから聞かされた話を、思い出したくないのに思い出してしまった。
「hyde君だけに教えとくね。
僕、この間夜中にスタジオに忘れ物したんで取りにいったんだけど、
夜のビル内って薄気味悪いよね。早く取って帰ろうと思ってスタジオ入ったら、
どこからともなく声が聞こえてきてね。
それが、すすり泣きのような、何か苦しんでるような。
で、やばい〜〜〜〜って思って忘れ物も取らずに速攻帰ったんだ。
hyde君、夜中のスタジオはやめたほうがいいよ」
その時は「あほくさ〜、ゆっき〜の怖がり〜」とか言って笑い飛ばしたのに。
実際、自分がその立場になるとめっちゃ怖い!
人が歌うところには霊が集まりやすいと、
気のせいかもしれないけど、聞いたことがあるかもしれない。
怖いので、何が何だか分からない。
hyde氏は仕方がないので、今や時代の波に取り残された体を晒している電話BOXに、
「ごめんね、いつも景観を損なう無頓着な箱なんて思ってて」と、
謝りながら入ると、怖いので後ろを気にしながら馴染みの番号を押した。
「サクラ・・・俺やけど、ちょっとスタジオまで来てくれ」
「・・・・・・・・真夜中と分かっている割には命令形で来たな.。
いやまさか、分かってらっしゃらないとか?」
ここで無益な戯言を言い合ってもちっとも面白くないので、さっさと用件を説明する。
「つまり、hydeは携帯を忘れて取りに行きたいんだけど、
yukihiroの話を聞いて怖くてオシッコチビリそうなくらいビビッテて、
俺に何でもするからどうか来て下さいと頼みたいわけだな?」
「あぁ、そうそう」
携帯がないと落ち着かないのは現代人の性である。
サクラのアホな世迷言より携帯だ。
目的に固執しているhyde氏には、サクラのアホな挑発より携帯なのだ。
「hyde、yukihiroのソレ、いつのことだって?」
「・・・・・・そんなんいつだってええやろ! 確か先週の金曜とか言ってたけど?」
「あ、・・・・・あ〜〜〜、hyde、それ、幽霊とかじゃねーよ」
「あ?」
「だって、そのすすり泣き、発信源お前」
「発信源、俺?・・・・・・・俺〜〜〜〜〜?!!!」
「ククク・・良かったな、yukihiroに踏み込まれなくて。
あ、でもまだ怖いってんなら・・・・、まぁ、その何だ、
今から新たな怪談話をそこでつくっ」
ガチャンッ!
「さ〜てと、さっさと携帯取ってこようっと」
ビビリのhyde氏は事の真相を得、しょせん都市伝説なんて言われてるものだって
きっとこんな程度のことだろうと密かにホッとした。
そして、さっきまで本当にチビリそうなくらいにビビっていたことなど
ものの見事に脳内から消し去った。
しかし、yukihiroも怖がりやさんやな。それにわざわざ俺にそんなこと話すなんて、
・・・・あれだな、少しでも人に話したほうが気も楽になるってやつだよな。
それに、てっちゃんやkenちゃんに話してもとことん馬鹿にされるだけやし、
その点俺やったらそういう気持ちだって理解してもらえる思って。
甘えたかったんやな〜〜、ゆっき〜、可愛いとこあるや〜〜ん。
とか、hyde氏が思ったかどうか分からないが、それに近いことは思っていたに違いない。
自分だってゆっきーのことを笑い飛ばしていたにもかかわらず。
しかし・・・・・・・・
『hyde君だけに教えとくね・・・夜中のスタジオはやめたほうがいいよ』
真の恐怖は人の心の内にあるのだと、
そして、人の綾なす言葉の行間にも時として恐怖は存在すると、
上っ面な恐怖にビビっていたhyde氏が気づくのは間もなくのことである。
終
05.11.06終
→ 見ちゃったシリーズ
→ top