櫻澤は都内某ホテルの一室で、久方ぶりに恋人との逢瀬を楽しんでいた。
とはいうものの、件の恋人は今だライブでの高揚の中にいる。
「ま、いいけどね。 「ライブ直後でトランス状態のhyde」なんて俺しか知らないんだから」
目の前の恋人は、気持ちのいい疲労感に身を委ね、視線をどこに定めるのでもなく、
ただうっとりと微笑み、まるで現実と夢との境界をたゆとうているかのように
意識を揺らめかせているのである。
その様子を、まるで音楽のようだと櫻澤は思う。
そして櫻澤は、恐らく、自分以外の誰にも見せたことがない恋人のその姿から、
目をそらす事ができずにいるのだ。
しかし、いつまでもこうしていてもな。
櫻澤とて久方ぶりの逢瀬をもっと生々しく、
現実味のあるものにしたい欲望が無いわけではない。
だが、恋人のこの様子から見て、あまり期待が出来るのものではないなと半ば諦めながら、
それでも少しは反応してくれよと語りかけてみる。
「今日のライブ見て思ったんだけど、最近hyde、逞しくなったよな」
しかし、櫻澤のこの一言は、思いのほか恋人の夢遊状態を現実に引き戻すことに成功した。
「! サクラもそう思う?」
先ほどからの表情とは打って変わって、輪郭も視線もくっきりとした顔で、
少し頬を上気させ、嬉しそうに恋人が言う。
(お〜、何か知らねぇけど喜んでるぜ。 可愛い〜)
「うん? 思うよ」
「ずっと筋トレにヴォイトレ、俺にしちゃ真面目にやってきたからな〜」
(いや、そーゆー色気のない話はいいよ)
「・・・ふ〜ん、そうなんだ」
「腕の筋肉もかなりついたやろ? 腕立てやってな、もうサクラにかて勝つかも!」
(何お〜〜)
「フンッ、あり得ん」
「(ムッ) ほな勝負してみる?」
(何でここでそんなことしないといけないんだよ。他にすることあんだろが)
「嫌だね。 そんな結果が分かってる勝負」
「(ムムゥ〜) あ、自信ないねんな。 ここんとこなまってるもんな〜、サクラ」
(溜まっちゃいるがなまっちゃいないぞ)
「なまっててもhydeとは勝負にならないね」
「(あー、クソッ!) あ〜〜、これは雌雄逆転も近いかもな」
「なんだよそれ?」
「たまにはさ、役割分担変えへん?ってこと。俺かて男なんやしぃ〜、
そういう欲望サクラに対して持ってへんってゆうたら嘘になるで」
そう言うとhydeは、寛いでいたソファから離れると、
ベッドに横になっているサクラに馬乗りになり、シャツのボタンを取り始めた。
それはいつもの「お誘い」という艶かしい表情とは程遠く、どちらかというと、
「俺、犯っちゃうぞ〜〜」
な意気込み充分な顔つきである。
(!!!! 身体だけじゃなくてhyde自体がオス化している!)
「待て! 分かった! 勝負しよう!!!」
「何賭けんねん?」
「雌雄決戦だ!」
「「 おうっ!」」
かくして都内某ホテルのスィートで、
大人の男の意地とプライドを賭けた史上最低の腕立て決戦が始まったのである。
だからなんで、こんなところで、こんな男くっさい汗かかなきゃなんね〜んだよっ!
hydeの奴〜〜、覚えておけよ〜〜
さてっ・・・・・・・小1時間後・・・・・・・
「あっ・・あっ・・・っ! あぁ・・・サ、サ・・んっ、んん やっ・・・あぁ・・・サクラッ!
ああっ・・はっ・・はっああっ・・・ あっ・・・あ〜、あぁあ〜〜〜・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・こんな可愛い顔して、何考えてんだよっ! 譲れるかっ!」
え〜〜〜〜、一応裏解説しておきましょう。
「んん〜〜〜〜〜、くっそ〜〜〜〜、まだだめかぁ〜〜〜〜〜
明日っから筋トレ・・・・2倍や〜〜〜〜〜〜、ああ〜〜〜〜〜〜ん」
「・・・・・・・・・・・・ちょっとマジヤバ! 明日っから通常筋トレだ! オラッ!」