「本当に悪い・・・サクラ、ごめん」
珍しく殊勝にサクラに謝る。
明日はサクラの誕生日で、
滅多にオフが合わない二人が、
なんの偶然かたまたま明日オフであり・・・
の、ハズだったのであるが、
「気にするな、誕生祝いをして欲しい歳でもない」
新曲のジャケ写撮りが押していて、
スタジオもカメラマンも明日しか空かないと、
先ほど携帯で言われたのだ。
サクラの誕生日にオフが一緒。
こんな偶然、この先あるわけがない。
それでなくても休みが取れずに少しイライラしていたところである。
そこに、スケジュールキツキツの合間の貴重な休み。
予定が空いて小躍りしたのが3日前。
サクラの誕生日だと思い出したのが2日前。
携帯でもなかなか捕まらないサクラと繋がったのが昨日。
そして、全てが台無しになったのが今日。
自分だって珍しく粘って、ギリギリまでスケジュールの調整をしたのだ。
だが、こちらがOKでも周りが整わなくては話にならない。
せめて断りの話は電話なんかで済ませないで、
直接顔を合わせてするべきだと、
日付の変わる少し前に当の本人の家まで赴き、
それでも部屋に入るのはなんだか悪くて、
玄関先でうつむき加減で話をする。
「んなところで話してねぇで、入ったら?
別れ話でもしてるみてぇじゃないか」
「・・・・・うん」
「それに、そんなに俺の誕生日にこだわるんなら・・・・
ほれ、たった今、なったぜ。 誕生日」
「あ、サクラ、おめでとう」
「・・・・・・・・・・・・・・・こだわった割にはあっさりだな」
誕生日にはゆっくりできるものだとすっかり思っていたものだから、
気の利いたものなんか選んで買うなんて時間もなかった。
プレゼントをやり取りするような歳でも間柄でもない。
ただ、一緒にいるだけでいいだろうと考えていた。
玄関先で俯いて、自分の靴先だけ見て、
手ぶらで、約束を反故にした言い訳を並べるなんて。
・・・・・・なんて間抜けなんだろう
それでも自分は、やっぱりサクラより仕事を取る。
歌うことを奪われて何もなくなったら、
きっと目の前の男に縋るだろうと分かっているのに、
やっぱり仕事を優先する。
「あのさ、そんなに自分のこと嫌になるなよな」
自分の心を見透かされたような台詞に、
ハッとして顔を上げる。
「部屋入って、少しワインに付き合ってくれるくらいなら、
お前の譲歩の範疇に入るんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「マスターからワインかっさらってきた。
1999ものと2000もの。若いけどこの年は葡萄のできがいいから、
極上に美味いらしい。置いときゃヴィンテージになるんだろうけど、
そういうの呑んじゃうって贅沢じゃね?」
あいつの半泣きの顔がツマミだ
そんなふうに言うサクラの気持ちに少し感謝して、
ワインを飲むだけと言い聞かせて部屋に上がる。
ワイングラスなんて持ってないサクラは、
床の上に普通のグラスを二つ並べて、
酒でも注ぐようにワインを注いだ。
キンッという澄んだ音とは違って、
野暮ったく、飲み口の分厚いグラスは、
ゴツッという鈍い音を鳴らした。
それでもワインは美味しく、
1本空ける頃には固かった気持ちもほころんで、
新曲の話やジャケ撮りの趣向、
考えてるアルバムの内容など、
疲れた身体に酔いが回って少し饒舌になるくらいに
気分も高揚してくるのが自分でも分かった。
「誕生日のお祝いにキスぐらいしてくれよ」
2本目が半分になった頃にサクラがそう言って、
手ぶらな上、部屋に上がりこんでワインまで呑んでいる手前、
それに、無下に断るのも返って意識してるみたいで、
「キスだけだ」と念を押して、接吻ける。
「キスだけだ」と、
サクラも言いながら額や目蓋や頬に接吻してくる。
ワインで体温の上がったサクラの身体に、
体重を預けたままでいられるのも、
暖かい掌で背中を撫でられるのも、
頭を撫でられながらキスをされるのも、
疲れた身体には極上のワイン(睡眠薬)・・・・・
スタジオ入りは朝の9時。
固い床の上でサクラと毛布に包まって
目が醒めたのが6時半。
飛び起きたいのを我慢して、
熟睡している男の傍からそっと毛布を抜け出る。
上品なワインだったから身体には残ってない。
けど、しっかり目覚めるために少し熱めのシャワーが必要だ。
サクラには悪いけど、勝手にシャワー使わせてもらうよ。
寝ている間にこっそり行こう。
そう思いながら鏡に写った自分を見る。
「!!!!!! やられたっ!!! あのエロザクラッ!」
鏡に写った俺の上半身は
首筋から胸にかけて赤い痣が無数に散らばっていた。
一つ二つだったらメイクでなんとかなるし、
残したまま撮るってのもちょっとあり得るけど・・・・・
「だけどっ! これは! しゃ・洒落にならん!」
俺の頭の中では既に今日、ドタキャンするための苦しい言い訳が
見事に構築されつつあった。
「2、3日は消えへんな・・・これは・・・」
今日はジャケ撮りだけの予定。
これは、スタジオとカメラマンの予定も聞いて、
一からスケジュール調整だ。
明日以降は・・・なんとか着込んで誤魔化そう・・・
「プッ・・・クク・・・ア、アハハハハッ!」
本当は笑っている場合じゃないのなんか分かってる。
どれだけ予定がずれ込んでるんだってのっ!
でも、キャンセルと聞かされた時のマネの上ずった声が予想できて、
明日からバタバタと走り回る自分の姿が浮かんで、
3日間ハイネックを着続ける言い訳が笑えて・・・・・
「ア〜〜ハハハハハッ! ヒ〜、く・苦しい〜〜」
「だから、そんなに自分のこと嫌になるなって言っただろ?」
思いっきり笑って涙目で振り返ると、
今日のドタキャンの原因がニヤニヤしながら立っていた。
「あぁ、サクラ、誕生日おめでとう」
「おぅ」
今更、因子が一つ二つ増えたところで結果は同じだ。
その原因を身体中で受け止めるために、