「なんだよ。そんな見惚れる程にいい男か?」
「うん、まあね」
お前な! そういう台詞は時と場合と場所を考えて言ってくれよ!
そんな子供抱えて、服も顔も髪もドロドロの状態で言ってくれても
今の俺はどうしようもないだろ!
こんな切ない気分になったのは久しぶりだ、最悪だと、
サクラは独り毒づいた。
そんなサクラの気持ちも知らず、
hydeは今にも寝そうな子供の身体を穏やかに揺らしながら言った。
「サクラは、すごいな」
「は?」
「サクラは、子供もいてないのに、コイツが何を一番して欲しいのかすぐに分かった」
「・・・・・・・そりゃ、分かるさ。 hydeのDNA受け継いでんだからな。
お前が同じ状態の時は俺、そうしてきたつもりだったんだけど?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
そういう無意識な口説き文句は時と場合と場所を考えてゆうてくれへんかな?
自宅にて息子抱えて、勝手に男に口説かれちゃって、なんだか情けないやんか。
今度はhydeが独りごちる。
本当にこの男は、そういうところは変に下手なんだ。
だけどそういう不意なところにいつも自分は墜ちてたんだっけと、
ちょっとニヤついた顔をサクラに見られないように、俯きながら思う。
しかし、サクラの荒っぽいお遊びに大喜びしていた子供の姿は
hydeとしては少し微妙だった。
自分はあんなふうには子供とは遊べない、はしゃげない。
「俺な、小さい頃あんまり自分の両親と遊んだっていう記憶ないねん。
実家、店やってたやろ。同級生にはよういじめられてたし。一人で遊ぶしか
あらへんかったからな。物心ついたころには、絵を描くかテントはってヲタク丸出し
アーミーごっこか、あとはバンド一直線。子供らしい遊び方、分からへんねん」
「お前さ、そういうネガティブな思考止めろよ。俺さ、今日、
お前の子供と遊んで思ったんだ。親をやるって、もう一度子供と一緒に
子供をやれるってことだよなって。遊んでいる間に子供の頃のこと
たくさん思い出したんだ。両親と遊んだ記憶がないって?
じゃ、親と一緒に遊びたいとは思わなかったのか? 思っただろ?
だったら、今度はhydeが、子供の頃親と遊びたかったことを、
自分の子供と一緒にすればいいじゃないか」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「それにさ、自分がどれだけ親に思われていたのかってのも分かった」
「ん?」
「お前の子供、俺、可愛いなって思ったんだ。もっと笑ってくれないかなとか、
喜んでくれないかなとか、手がなんてちっちゃいんだとか。
そんな手で一生懸命抱きついてくるんだぜ。なんか、
頼りにされてんじゃない俺?っていうか、こんな手振りほどけないなっていうか、
この手を大切にしてやりたいっていうかさ」
「うん」
「でもな、そういう思いって、絶対hydeの両親も俺の両親もしてるんだ。
だから、俺はこんなふうに親に思われて、可愛がられたことがあるんだって、
柄にもなく感動した」
あぁ、どうしてやっぱりこの男は間が悪い。
こんな所で、そんな子供や両親ネタで優しくならないで欲しい。
恥ずかしいのかこちらを見ずに一気にまくし立てるサクラを見ながら、
子供がいなかったらきっと今自分は、この男に抱きついてキスの一つでも
しているだろうとhydeは思う。
そして、何やら慈愛に満ちた笑顔のhydeが妙に恥ずかしく、
それに、自分も本当に柄にもないことを言ってしまったと、
サクラは照れ隠しで言う。
「だからさ、そんなに見惚れる程にいい男か?」
「・・・・・・サクラ、どうしよう」
「なにが?」
「俺な・・・ほんまにサクラのこと好きやな」
どうしてくれようこの天然ボケ!
そういうストレートな物言い、どうして聞きたい時に聞かせてくれないんだ?
なんて日なんだ今日は、全く!
そんな気持ちを今この状況でhydeに伝えたところで意味がないだろう。
本人は、腕の中の子供に子守唄なんぞ歌い始めている。
「俺、もう帰るわ」
「あぁ、いろいろとごめんな、ありがとう」
立ちかけたhydeに、子供が起きてしまうから見送らなくてもいいと言うと、
サクラは足早にマンションを後にした。
なんだか妙な気分だ。
幸せと不幸せが一緒くたという感じ。
嬉しいのに切ない。
楽しいのにやり切れない。
hydeが歌っていた子守唄を、ふと口ずさむ。
Good night, sleep tight
Dream sweet dreams for me
Dream sweet dreams for you・・・・・・
なんだっけ、この歌?
あぁ、ジョン・レノンが愛息に書いた歌だ。
あぁ、もう本当になんて日なんだろう・・・・・