夢でも逢いたい


6月の京都は蒸し暑かった。
それでも、京都に来たのなら芸子遊びのひとつでも経験してみたい。
部屋を取った白川沿いの料理旅館『しら梅』は、川から清風が吹き込んで、
少しツアー回りで疲れたHYDEたちの身体を心地よく撫でてくれた。
 
芸子がつま弾く三味線と小唄が耳慣れない彼らではあったが、
舞妓の酌とそつのない会話とその雰囲気にとてもいい気持ちになっていた。
 
7月に入れば祇園祭一色となる京都。
かつては旧暦6月の行事だったそうだ。
床の間には早くもそれを思わせる掛け軸が掛けられていた。
 
そして花入れには見慣れない黄朱色の花。
 
「あれ、あの花なんてゆーの?」
 
HYDEは舞妓になってまだ1年だというその娘に聞いてみた。
 
「へぇ、あれは「檜扇」ゆうんどす」
「ひおうぎ?」
 
「昔、お公家はんが持たはった扇に形が似てるからやそうどすわ」
「ふ〜ん」
 
「ひおうぎゆうたら祇園さんのお花なんどすえ。
 鉾立て巡行の前の日まで、このお花が長刀鉾の正面を飾らはりますんえ」
 
へ〜え、そうなんだという、ただ単に「檜扇は祇園祭の花」というだけの
知識を得た後、彼はまた、芸子の三味線に合わせて舞う舞妓の姿に感動し、
しら梅オリジナルの絞り酒の甘さに酔いしれ、
激しく流動的な
ツアーの隙間に漂うまるで時空の歪みのようなこの空間を、
ゆらゆらとした意識のままでしばらく楽しんだのであった。
 
その内、何事につけても少し若いHIROKIが芸子を捕まえて話すのは
やはり男女の色恋沙汰のことであり、HIROKIを囲んで甘めの酒に酔った
FURUTONやKAZまでもがその輪に加わり始めた。
 
少しそこから距離を取り、たまにはこんなふうに羽目を外すのもいいだろうと
生酒に舌鼓を打つHYDEに、先ほどの舞妓がすっと輪から抜け酌をしに隣に座った。
 
「もう、あの兄さんたち根ほり葉ほり聞かはんにゃけど、
 姐さんたちは
慣れてはんにゃけど、うちにはちょっとかなんのどす」
 
そう言われて彼女の顔を見ると、成る程白く化粧された顔ながら、
ほんのり紅く染まっているのが判った。
 
まったくごめんね、おぢさんで。
みんなずっと忙しくて、おまけにこんな経験初めてやからちょっと有頂天になってるんよ。
ごめんねー、後でしばいとくしねー。
 
そうは言うものの、やはりHYDEも彼女たちの私生活に興味が無いわけではない。
15で舞妓になって1年ということは、彼女は今16か。
16の女の子なんていったら、それこそ恋とお洒落に一日暮れる頃なんじゃないだろうか?
 
「虹松さんは好きな人とかいてないの?」
「いややわぁ、にいさんまで」
「いぃひんの?」
「・・・・・こんなんお座敷でゆうたらおかあはんに叱られますよって」
 
にっこり笑った彼女の顔は、
化粧が施されたその下の
16歳の女の子のあどけなさが現れていた。
 
「そーゆうにいさんこそ、ツアーとかゆうて長い間お好きな人と離れてはって、
 そんな切ない独り寝をどう紛らわせてはるんどすかぁ」
 
あらあら・・・・そーゆのちょっと慣れてなくてかなんかったんとちがうんですか?
 
うふふふふと小さく笑う彼女を見ながら、
そう聞きながらもそれ以上のことは
訊ねてこない彼女に、
年端は行かなくても彼女がちゃんとした押しどころを
わきまえている舞妓なのだということが判った。
 
「そうそうにぃさん、檜扇の種って知ってはります?」
「ひおうぎのたね?」
 
花なのだから種くらいあるだろうけど、さっき教えてもらったばかりの花の種など
知るわけないやろうと思っていると、彼女は自分の懐から大事そうに
可愛い花柄の小袋を取り出し、その掌に中身を振り出した。
彼女の手には幾つかの真っ黒で小さな種が載っていた。
 
「何、それ?」
「檜扇の種どす。 「ぬばたま」ゆぅんどす」
「真っ黒だね」
「へぇ」
 
彼女は自分の掌からその種子を一つ摘むと、HYDEの掌に渡した。
 
「黒・夜・闇・髪・・・枕詞でぬばたまが掛かる意味どす」
 
黒・夜・闇・髪・・・・・HYDEには同じイメージで思い出せる人物がいた。
彼女が何が言いたいのか少し興味が湧いてきた。
 
「いとせめて 恋しき時はむば玉の 夜の衣を返してぞ着る」
「?」
 
「にぃさん聞いたことおへんやろか?」
「・・・・・ぜんぜん」
 
掌でぬば玉を転がしながらはにかんだように話す彼女を見ると、
あぁ、こうゆうところは何だか16歳だなぁ、可愛いなぁと思う。
 
「どういう意味なの?」
 
彼女のほんのちょっと上気した顔を覗き込み、
HYDEはもう一つ
彼女の掌で転がるぬば玉を自分の手に移した。
 
「小野小町の歌にゃんやけど、心がどーしても悶えて我慢ができひんほど
 愛しい人を恋しく思う夜は、作り話やと判ってんにゃけど、
 ついつい寝間着を裏返しに着て寝てしまうという歌なんどすけど・・・・」
「寝間着を裏返しに着て寝るとどうなるの?」
「そうすると・・・・」
 
今度は彼女がHYDEの顔をのぞき込み、うっすら笑い、
まるで大事な秘密を
うち明けるように小声で彼に言った。
 
「好きな人の夢が見れるんどす」
 
うちかてそらお好きな人くらいいてますし、夢見る16歳ですやろ?
逢いたい時に逢われへんにゃったらって思いますのんえ。
ぬば玉? へぇ、これはうちのおまじないみたいなもんなんどす。
絶対にあの人に夢で逢えますようにって・・・・・
 
 
「これ、もらってもいい?」
 

彼女たちのお座敷が引く時に、HYDEはその舞妓からぬば玉を一つ貰った。
彼女は少し妖艶な顔をして笑い返すと、
 
「ほなにぃさん、おぉきにぃー」
 
と三つ指ついてお辞儀をしている芸子たちの後ろに回り、
同じようにお辞儀をし、
夜の祇園に消えていった。
 

今まだ興奮覚めやらぬメンバーから、「HYDEは何やらあの舞妓と上手く
いってそうだったな」などと下司な勘ぐりなどされ、
「お前らただのお座敷遊びに上手くいくも何もないやろ」と言い返しながら、
何だか現実だったのか夢だったのかHYDE自身も定かでないような感覚に襲われていた。
 
少し外の空気に触れてみようかと、開け放たれた窓際に身を寄せると、
白川の清流に覆い被さるように桜の木の枝が垂れていた。
湿った空気が清風に載って、木々の香りを送り込んでくる。
その風がむせ返るほど濃く感じた。
 
掌のぬば玉。
真っ黒で艶やかに光っている。
それは覗き込むほどに掌の中で漆黒が広がっていくようだった。
 
 
 
             翌朝
 
 
「FURUTON・・・俺さっき宝井起こしに行ったんだけどさ」
 
その夜はしら梅の好意で1室設けてもらったメンバーたちである。
起き抜けで大爆発している頭をガシガシ掻きながら、
一向に起きてこないHYDEを起こしてこいと言われたHIROKIが
KAZとFURUTONになぜか申し訳なさそうに言った。
 
「でもさぁ、アイツさぁー、布団けっちらかして寝てっからあーあと思ってみたらさぁー・・・・・・・・」
 
「ね・寝間着・・・寝間着、この蒸し暑いのにしっかり着込んで
 プッ・・・クククク・・・ハッハ・・・し・しかもよ
 それ裏っかえしなんだよー、ありえねーよなぁーーーー!!!」
 
そんな間抜けなHYDEを見ずして何とする! の勢いで彼の部屋に
行った他メンバーたちであったのだが、
 
「HIROKI・・お前の気持ち何となく判ったよ」
 
HYDEの寝顔を見たKAZもFURUTONも共に頷くだけで、
やはりHYDEを起こすことにしばらく躊躇うのであった。

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06.12.01
 

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