収録後の六本木はまだまだ人通りが絶え間ない時間帯だった。
局前には出待ちのファンが大勢ひしめいているいつもの光景が
広がっていた。
 
大通りから一本入った少し細い通りに入る。
お互いにどう言いつくろって出てきたのかなんて今更のことだ。
ファンの黒だかりから遠のくまで二人して無言で歩く。
 
ある程度離れたところでhydeが口を切った。
 
「お前今年花見した?」
「いやー、そんな暇、それこそないね」
 
「あー、そうだね。 それにお前自体が最近咲いとるみたいやからな。
 花見なんかせんでもえーか」
局を出るときもどこからかそんな声がしていた。
 
「嫌味か」
「ふふ。 妬いてんの」
 
どんな顔してそんな台詞吐いてんだコノヤローと、横目で伺う。
案の定、普通ーのつまらなそーなhydeが歩いている。
が、彼は尚も続ける。
 
「太郎君もなー。 結構な話聴くんやけどな、マジ?」
「さあね」
 
「余裕ぶっこいてますね。 男前ー。
 明希君なんかにも随分と慕われてるしな、サクラは」
「どちらも先輩・後輩としてだけどね」
 
「俺、焦るわー。 今度は上海、お忍びでついてっちゃおっかなー」
「あ、それはマジで連れていきたいね」
 
どうだ! と思った決め台詞にも表情は一向に動かなかった。
 
「全くお前はあっちふらふら、こっちふらふら。
 いーっつもどこで何しとるんだか分からへん」
「これからは携帯に入れよーか?」
 
「俺の背中の羽根よりも、お前の見えない羽根のほうが
 よっぽど自由に飛べれるようやな、羨ましいで」
 
参ったな。
これはどこか早々に落ち着かないといつまで続けられるか分からない。
 
 
通り沿いに植えられた桜の花びらが二人の頭上に降りてくる。
hydeの対応に煮詰まったサクラが、何の気無しに舞い散る花びらを掴もうと、
その手が宙を切った。
 
「あれ?」
 
掴んだと思って掌を開けると、そこには何も無かった。
もう一度、今度はひとつの花びらにねらいを定めて手を伸ばす。
が、やはり掌には何も残らない。
 
「へったくそ」
 
しばらくその様子を見ていたhydeが吐き捨てるように言う。
 
「だったらお前もやってみろ」
「ふん」
 
hydeは立ち止まると掌を広げ、ひらっひらっと舞い落ちる一欠片の
花びらが掌に充分近づいたところで、すっと掴み取った。
 
サクラの目の前で握った拳を広げる。
確かに花びらがそこにあった。
 
サクラももう一度花びらを追うが、やはり取り損なう。
そうこうしている間にもhydeはまた花びらを取っていた。
取った花びらを、またサクラの目の前に晒す。
 
「こんなふわふわしてるもんな、追っかけて取ろう思っても
 自分が起こす気流で却って逃げられるんやって」
「じゃ、どーやんの?」
 
「じっとして・・・充分近づいてきたところを・・・・掴まえるっと」
 
サクラの目の前で掌を開く。
やはり花びらが入っていた。
 
「百発百中だな」
 
広げた掌の花びらを、hydeはふっと息を掛け吹き飛ばした。
 
「あ! あ・あのさ、そんな風に吹き飛ばすことないじゃん?」
不意にそう言ってしまった。
 
するとhydeは、
 
「いつまでも握り混んでいたって俺がうっとーしいだけやろ?
 欲しかったらまた引き寄せて掴まえればえーんやから」
 
と、下から睨みつけながらサクラに言った。
口の端が僅かに上がっていた。
 
 
「はぁ〜〜〜〜〜〜」
 
サクラの口から深い溜息が漏れる。
太い腕で細い腰を抱き寄せる。
 
「今日は最後までエスコートさせていただきます」
「じゃ、フルコースで」
 
どうやら自分の羽根は行き先自由でも、戻る場所は一つに決められている
ようだとサクラは思う。
いや、そんなことは昔っからのことだったのだが。
改めて、こうも鮮やかに目の前で自分の拠り所を示されると、情けないを
通り越して諦めざるをえない。
いや、これもとっくの昔にそのことに対して無駄な抗いをする労力は、
相手が望むがままに喜んで捨てた自分だったはずだ。
 
 
お互いの腰に絡みつく腕も、最近の調子の良さで忘れかけていたが、
本当は対価をもって回されているのではないことを、
その夜充分サクラは思い知ったのである。

本当はヘタレ
07.05.24

→ 基本はSH6
→ top