吃逆


じゃぶん、ざっぶざぶと水道の蛇口を目一杯に広げ、辺りに水しぶきを飛び
らせながら俺は男の子らしく顔を洗う。
 
ぷはっ
 
・・・・・・・・・へっく
 
止まらないよねぇ。
 
洗面台についている鏡に前髪から水の滴っている俺の顔が写る。
 
「ひぃっいっく!」
 
さっきまで堪えていたしゃっくりが、余りに大きな声で出たのに驚いた。
肩まで揺れていた。
 
「あははは」
 
何だか可笑しくなった。
天下のhyde様がしゃっくりごときでこの様だ。
 
続けてひっくと身体が揺れたと同時に扉が開いて、サクラが入ってきた。
 
「おっ?」
 
鏡の中で目が合う。
 
「hydeさん、こんなとこにいたの?」
「顔、洗ってくるってゆわなかったっけ?」
「聞いてなかった」
「ふーん」
 
コイツのこーゆーところは結構慣れてきた。
つかず離れず、人との間合いを丁度な具合で取るのが上手い。
鏡の中の俺の肩がまた小さく揺れる。
 
「止まらないな?」
「止まらないんですよ」
「困ってる?」
「少し」
 
「じゃ、ちょっとかしてみろ」
 
かしてみろ? 貸すって何を貸すの?
サクラの表現はほんとに面白いね。分からへんよ。
なかなか通じないよね。
 
そう思っている間もなく、サクラは俺の顎を掴み上げ、唇を寄せた。
いきなりのことで驚いた俺の唇を割って、舌がざらっと入ってくる。
 
けれどしゃっくりは止まらない。
小さなしゃっくりが、俺とサクラの身体ふたつを揺らす。
くすりとサクラは鼻で笑うと、俺の口の中を舌で掻き回し始めた。
 
入ってきたときは冷たかったサクラの舌が、ぬるまるくなってくる。
俺達はお互いの舌をなるませながら、いろんなことを試してみた。
 
上顎をなぞられながら、唇を薄く舐められながら、もっと舌の動き
を確かめたくて視覚を遮る。
上手いキスとSEXは似ている。
 
teっちゃんともkenちゃんとも違うやり方で俺に入り込んでくるサクラ。
入り込まれるといつもぐちゃぐちゃに掻き回される。
身体が熱くなってくる。
 
ぴちゃり
 
口から音が漏れ、小さく遮断された空間に響いた。
その瞬間恥ずかしくなった。
 
「ん・・もうええよ」
 
サクラの身体を押しのけ、口の端のどちらとも分からない唾液を拭う。
 
「これで止まったら女の子に使えるな」
「最低、お前」
 
お互いに鏡の相手に向かい会話をする。
 
ひっく
 
「・・・・・残念。 使えねぇや」
「ざまーみろ」
「もう一回試してみる?」
「どっかゆけアホ」
 
「じゃ、自力で直せ」
 
鏡の中の俺に微笑みながら、鏡のサクラは後ろ手に扉を開け、来たとき
と同じ様な様子で出ていった。
まるでフィルムの逆回転を見ているようだった。
 
蛇口をひねり水を勢いよく出す。
じゃぶじゃぶと顔を洗って、掻き回された口に水を含み吐き出す。
顔を上げると前と同じ、髪から水を滴らせた俺が鏡に写っていた。
 
ひゃっく
 
けいれんする身体も揺れる肩も変わらない。
何も変わらない。 何も変わらない。
 
「あなどれんなぁ」
 
サクラのキスのことか? 
いや、しゃっくりのことだ。
 
「ま、何とかなるやろ」
 
声は少し甘ったるくなっていて、もとの場所に戻る為に、俺はしばらく
そこに佇んでいた。

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07.08.22

基本はSH6
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