そういう関係

テーブルに放り出されている数冊の雑誌に目をやる。
音楽誌の他にも様々なジャンルでそれらは置かれている。
その中の一冊を適当に取り上げ、ソファーに座り、ぱらぱらとめくった。
 
「カズー、何読んでんの?」
 
「仕事の合間の一服」を指に挟んだHYDEが、ゆっくりと隣りに座る。
 
「なんかおもしろいこと?」
 
雑誌を覗き込むHYDEの長い睫毛が、真下で二回動いた。
髪からは少し良い薫りがする。
 
「HYDE、音が波のように見えることがあるって、それほんと?」
「うん、ほんと」
 
写真のない細かい字の羅列からHYDEが顔を上げて、俺を見た。
 
「ここにね」
思った以上に顔が近くて、誌面を指さし、彼の視線をもう一度落とさせた。
「うん」
 
「音は空気の波みたいなものだって書いてある」
「ふーん」
 
音の正体は簡単に言えば揺れ動く空気。
この空気の波がHYDEの耳の奥へ入っていって、
その先にある薄い膜に振動を起こすんだって。
 
 
「薄い膜? ・・・・・鼓膜?」
「そう、ちいちゃくて薄くて可愛いHYDEの膜」
「・・・・・なんか言い方やらしくない(笑)」
「気のせいだよー(笑)」
 
 
空気の波はHYDEの鼓膜を揺らし、
その奥の器官にあるリンパ液に振動を伝える。
そこにはリンパ液を仕切る膜がさらにあり、
膜は振動で揺れるリンパ液によってウネる。
高音は手前の膜で、低音はその奥で。
このウネりは脳へ伝達され、そして脳は音を識別する。
 
 
「カズ、頭ええなーー」
「書いてあるから。 
 それに、こんなことやってるHYDEの頭もいいんじゃない?」
「じゃ、カズもじゃん。 俺たちって頭いー」
 
 
「音は空気の波」というのなら、
アドレナリン大放出のHYDEの脳が、
彼に音を波のように見させてもおかしくないと思った。
 
 
「カズー」
「ん?」
「低音は奥でウネんの?」
 
雑誌から顔を上げてHYDEを見ると、
彼は、いつもの気のないような曖昧な表情に戻って、
煙草の煙を目で追っていた。
 
「うん、そう書いてあるよ」
「そう」
 
吐いた紫煙が天井でかき消されると、雑誌に埋もれた灰皿を発掘し、
そこに至福の友をねじり潰す。
 
「俺、Ju-Kenのローもグッとくるけど、
 やっぱカズの重たいのでイキたいな〜」
 
ギターの低音は思っているほど必要はない。
低音は周波数の速度が遅いため、多ければ音が籠もり、
バンドの音全体がバラバラに聞こえる。
 
HYDEが言う音圧の高い迫力あるギターを聴かせるには、
ベースやバスドラの低音に乗せる必要がある。
 
 
つまり、演奏が揃っていることが必至なのだ。
 
 
 
「Ju-Kenがカズのこと呼んでたよ」
「・・・・なんか言い方やらしくない?」
「気のせいだよー」
 
 
読んでいた雑誌をHYDEに手渡し、
控え室のドアに向かって歩き出す俺を、彼が呼び止める。
 
 
「カズー」
「なに?」
 
「俺を身体の奥からウネらせてねん」
 
振り返ると投げkissとウインクのダブル攻撃だった。
 
「ステージであはんあはん言わせてあげるからねー」
「きゃー、カズさんったらやっらしー」
 
 
ソファーに座りながら足をバタつかせているHYDEを見て、
自分もHYDEの扱いに随分と慣れてきたなと思った。

そして今宵もHYDEは腰を振る
 
09.10.15

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