廊下の曲がり角に消える見慣れた長い足の一部分を
hydeは見つけた。
「こら、待て」
呟いて曲がり角まで急いで行ったが、
曲がった向こうにその姿は既になかった。
「全く、何を考えてるんkenちゃんは?」
話したいことがあるというのに、
話しかける前に逃げられた。
煙草でも一服しに行ったのだろう。
すぐに帰ってくるだろう。
そう思って待っていたけれど、一向に帰ってくる気配はない。
痺れをきらしたtetsuが携帯を鳴らそうにも出ない。
なぜかyukihiroを一緒に連れ出しているのが性質が悪い。
付き合うyukihiroもyukihiroだ。
そのyukihiroの携帯としか今はkenと繋がる手段がないのは、
今となっては不幸中の幸いだ。
tetsuは気ままな幼なじみを呼び戻すため、
今度はyukihiroへと電話を掛けた。
「何、tetsu君?」
「何? やないでしょー、一緒に何してんのよ?
時間おしてますぅー。
お祝いの主がおらんでどーすんのよ。
hydeが探しに行ったんやけど。
髭にはよ帰ってくるようにゆって」
「うん」
ふぅと溜息をつきながらyukihiroは携帯を切った。
さっき巻いたhydeを振り返りざまにチラリと見た時、
え〜加減にせぇよ
という黒いオーラが、身体から発散されまくっているのを感じた。
とばっちりを喰うのはごめんだ。
「kenちゃん戻ろ」
hydeと鬼ごっこをしながら身を隠した空き室で、
一体自分はなんでこんなことに付き合わされているんだろうと、
yukihiroは理由を考えて愉快になった。
それもこれもこの無類の天才ギタリストの、
あまりにも無邪気で無垢な欲求の出所が、
多少自分の影響によるものであると分ったからだ。
「みんな待ってるよ」
kenはその猫口をとがらせて、一心に携帯のウィンドウを見ている。

「でも、今会っちゃったら、メールもらえないでしょ?」
あぁ、やっぱり。
さっき届いたお祝いメールに顔を輝かせて出たものの、
それが共通に知る悪友であり、最近多忙なドラマーだと分るや、
がっくり肩を落としたkenであった。
お祝いに来てもらえないことがそんなにショックなのかと思ったが、
どうやらそこには違った意味があったようだ。
「メールしてほしいならはっきりそう言えば?」
「ゆっきぃはそう言ったの?」
んなわけないじゃん。
答える代りにうすーく微笑むと、
“でしょー”と真剣な眼差しで言われた。
「俺にもはいどさん、メール送ってくれないかなぁー」
kenのベクトルはいつも予想不可な方向に動く。
というより、30代最後になるその初日を、
こんな拘りで明けたkenのこれからの一年は、
きっとくだらないことが一杯の愉快で幸せなものになるのだろう。
マナーモード設定にしてあるyukihiroの携帯。
この部屋の外で待機しているであろう発信者の名前が
その直後に発光するのを見てyukihiroはそう確信した。
だけど、
分ってんなら素直にメールくらい送って
さっさと喜ばせてあげればいいのに。
ディスプレイに発光する名前に向かって呟く。
そして最後は結局、焦らした挙げ句に目当てのものをあげてしまう彼は、
やっぱりS体質だ。
しかもそれが無意識の内だから尚更始末に悪い。
というより、得な性分かな?
「kenちゃん、僕、先に戻るね」
「えー」
「kenちゃんがんばって」
“ゆっきぃ〜〜”という心細そうな声を背中に部屋を出る。
案の定、腕組をしたhydeが笑いをこらえながらそこに立っていた。
「kenちゃんよろしく」
「まかせて〜ん」
メールや携帯なんかよりも、直接届く言葉のほうがどれだけ素敵だろう。
それをよく知っている彼は、kenにどんな言葉を掛けるのだろう。
ちょっと聞いてみたい衝動に駆られたけれども、
今日のそれはkenだけのもの。
「おめでとうkenちゃん」
まだ言っていないその言葉は、
終
07.11.28