母国の喧噪から逃れてやって来た外国。
少し仕事もあるけど、今までのペースから比べれば雲泥の差。
みんなとの共同生活もおままごとみたいで楽しい。
でも、どこか張りつめたような空気。
皆が一様に同じ不安と期待を持ち合わせているからだ。
kenちゃんの下ネタジョークに過敏に反応してみせたり。
teちゃんのとりとめもなくなる話を無理矢理終わらせず、
ちょっとつき合ってあげたり。
時々会うゆっきーには変に遠慮しなかったり。
そしてみんながやたら俺に声を掛けたり。
そういうことが空回りになるのが分かってるのにね。
「hydeさん」
夕食の後、部屋に向かう途中でkenちゃんに呼び止められる。
今は二人きり。
スタッフも出払って、teちゃんはゆっきーとどこかで観光客している。
「何?」
kenちゃんに振り向くと、彼の手に白い封筒があるのに気がついた。
「何? 写真?」
「うん、そうそう。 hydeさんにあげる」
あちらでてっちゃんのおにゅうのカメラに悪戯して、
フィルム1本まるまる撮ったんだっけ?。
こちらに来る時、一緒に持ってきて現像したんやね。
「なんで? 変なん入ってへんやろな?」
「私の股間アップとか?」
「いらんし」
「うそうそ。スタジオでの練習風景とかよ」
「kenちゃん持ってたらええやん」
「僕、写ってへんもん。 撮ってたから」
なるほど。
「teちゃんには内緒ー」
そう言うと、kenちゃんはデザート漁りにキッチンに戻って行った。
なんで? なんで、teちゃんには内緒なん?
やっぱりとんでもない写真なんじゃ・・・kenちゃんのことやし。
自分に割り当てられた部屋に戻り、
備え付けのテーブルについて封筒の中身を取り出す。
一枚目、ギターを弾いてるteちゃんの手元を覗き込んでる俺。
二枚目、フラッシュに気がついてカメラ目線の二人。
三枚目、なんか文句ゆうてるteちゃん。
あ、ほんまに普通に練習風景やね。
四枚目。
「・・・・・・・・」
アングルを変えて俺たち二人を撮った後ろに、
ドラムを叩いているサクラが写っていた。
くわえ煙草で帽子を目深に被り、
顎をちょっとしゃくって、
ピンと伸びた姿勢でスティックを自然に降ろして、
でも、顔だけはこちらを向けて、
笑いながら俺たちを見てる。
「ちゃうな、「俺」を見てるんやな」
なんて独り言を言って、周りに誰もいないのを確認する。
五枚目、サクラに近づくカメラ。
わざとなんだかなんなんだか、
目線を戻して真面目に叩いてるサクラ。
ふん、格好エエやん、あほぅ。
六枚目、kenちゃんのしつこい撮影は続き、ドラムを叩くサクラの後ろ姿。
背中についた筋肉が綺麗に隆起してる。
ドキリとしたのは気のせいにしとこ。
七枚目、再び正面からのサクラのアップ。
サクラはスティックをkenちゃんに向けて何かゆってる。
「しつっこいぞてめぇ! とかゆうてんやろ。
自分かってたいがいしつこいくせに」
最後八枚目、サクラのドラムを叩く手。
シャッタースピードがドラミングに合わず、
スティックの先が弧を描いていた。
サクラの叩くドラムの音が耳に蘇ってくる。
鼓動が少し早くなって、腹の奥がなんだか寂しい感じがした。
気がついたら下唇を強く噛んでいた。
ずっと自分を誤魔化してきたものが身体から這いずり出し、
ザワザワと体中を覆うようなその感覚に耐えきれず、
大声を上げてしまいたい衝動が沸き起こる。
こうやって、不意に思い出に気持ちを逆撫でされる。
嫌なことのひとつ。
kenちゃん、こんな写真俺に渡すなんて酷いやんか。
何でよ?
後でteちゃんとこに全部持ってこ。
kenちゃん大嫌いや。
明日は口、絶対きいたらへん。
固く決心したところで封筒にもう一枚写真が残っていることに気がついた。
どうせまたしつこくサクラの写真なんやろ。
kenちゃんのアホアホアホアホ。
封筒から本当に最後の一枚を取り出して見る。
「・・・・・・・・・な・・・・。 kenちゃんほんまに大っ嫌い」
封筒から取り出したそれには、
反対側に回ってサクラを撮ったその向こうにいる
俺の顔にピントが合わせられていた。
俺は、少しはにかんだように頬を上気させて、
苦しそうな嬉しそうな
複雑な表情でサクラを見ていた。
・・・嘘。
俺、いつもこんな顔でサクラのこと見てたん?
それをkenちゃんに撮られるなんて・・・
さっきあったサクラのアップ。
もう一度取り出してじっと見る。
やっぱり唇を噛んで見てしまう。
アホザクラ
エロザクラ
トンマヌケ
お前のことも大っ嫌い
バーカ
バーカ
バーカ
写真に向かって散々悪態をついてやった。
ちょっとすっきりした。
でもすぐにまた、あの腹の奥が寂しいような変な気持ちになってきた。
最後の一枚。
俺にこんな顔させるなんて。
なんやこれ? まるっきり乙女やんか?
恥ずかしいわほんまに、ボケ!
俺、アホみたい。
「・・・う」
ちゃう。
ほんまは好き。
恥ずかしいけど、こんな顔してる自分が好き。
こんな顔できる自分、めっちゃ可愛エエ。
この時に写真と一緒に切り取られた気持ち、
それはまだここにある。
もう一度信じたい。
この時の自分をもう一度信じたい。
そしてその瞳の先にあるものを、
・・・・・もう一度信じたいよ。