軽快にスピードを上げ続ける1台の車が由比PAを通り過ぎる。
前方には日本が誇る富士の山がその裾野を雄大に広げ、
右手には駿河湾が春とは思えぬ強い日差しに照らされていた。
「はぁ〜、東京まであと140qもあるんか〜」
助手席に座っているtetsuが欠伸交じりの声で独り言を言う。
カーステレオからは「スコーピオンズ」の「Virgin Killer」に続いて
「Hell Cat」が流れ始めた。
「ウルッ! あかん! うりゃー! なんでお前が歌うねん!
アンタはギター弾いてりゃエエの! おらそこ邪魔やーーー」
運転席で雄叫びを揚げているのは
「今日はトータルで最後まで行きます!」宣言をしたkenである。
「kenちゃん、車乗ってるとき別人」
「運転してて眠る人よかエーんちゃん?」
「寝てたら起こせばエエやん?」
「だから嫌なの! teっちゃん運転ん時の助手席は!」
「やから全面的にハンドル預けてますやん?」
「そーゆーことゆうの?」
「よそ見しとらんと、ちゃんとアクセル踏んでやー」
「・・・・はいはい、リーダーさん」
幼馴染と冗談を交わしながらも、tetsuの視点は東京へと向かっている。
Denger Crueとの契約後、アルバム『DUNE』を引っさげ、
この6月からは初のツアー『Close by DUNE』が控えている。
事務所と契約したからにはいつまでも大阪でくすぶっているわけにもいかない。
そろそろ東京への移転も考えなくてはならない。
やらなくてはならないことが沢山ある。
途中からラルクに入ったサクラとメンバーとの関係だってそうだ。
最終的には東京に進出するつもりでいたのだから、
何もわざわざ彼を大阪に呼びつけることもない。
しかし、大阪と東京。
関西人の中に関東人が一人。
これから文字通り寝食をともにする仲間となるには、
彼のものとは違う自分たちの文化に直接肌に触れてもらったほうが、
手っ取り早く自分ら3人のことを分かってもらえるだろう。
『DUNE』のレコーディングが差し迫っていたこともある。
「お付き合いを始めるのに、まずお互いの両親へのご挨拶。
その後、電話やお手紙で徐々に知り合っていきましょう」
なんて悠長なことを言ってる暇など、あの時のメンバーにはなかったのだ。
やらなくてはならいことは沢山あって、それに費やす時間はない。
幸運にもtetsuの荒行事は、実際に面食らったのはコチラ側ばかりでは
あったものの、音楽的センス同様、人間関係を構築するセンスにも
長けていたサクラの勘の良さに助けられ、今ではまずまずの成果を上げた
と言える。
一人を除いて。