I'm・・・happy


後部座席の静けさが気になり、
バックミラー越しにチラリとkenはその様子を伺った。
 
目に入ったのは、
運転席の後ろで縮こまって窓際に身を寄せる仏頂面のhydeだ。
隣でうつらうつらしているtetsuに囁く。
 
「teっちゃん・・・・hyde」
「ん〜?」
 
tetsuが少し身体を伸ばし、同じようにバックミラーを覗き込む。

・・・なるほど。
 
tetsuが無言で振り返ると、hydeに無言で睨み返された。
 
hydeの横に座っているはずのサクラは、
とっくの昔にその身体を後部座席の約90%を占める状態で陣取っていた。
 
右足を背もたれに引っかけ、
左足は・・・・・最悪なことだがhydeの膝上に投げ出されている。
そして両足とも、車に乗り込んだ直後に既に裸足だ。
 
「お疲れさん」
 
微笑んで前方に向き直ろうとするtetsuにhydeが声を掛ける。
 
「てぇ〜ちゃ〜ん」
 
hydeは声を使い分ける天才だ。
それを聞けば、彼が今どんな心理状態であるのかなんて
説明してもらう必要もない。
 
「なんや?」
「この人になんとかゆって」
 
「だって寝てるやん?」
バックミラー越しにhydeと会話をする。
 
「俺がいてんのになんでこんな格好して寝れるかな? 信じられへん」
「サクラはほら、何かに夢中になると周りが見えへんようになるやろ?」
 
「今寝てるだけやんか」
「だから夢中・・・・・・」
 
「(怒)kenちゃん! 次のPAで止まって! 俺、助手席に行く!」
「え〜、やっとノッてきたとこやのに〜。 
 もう今日はこのまま行きたいんやけど〜〜」
 
そうこう言っている間にも、車は駒門を走り抜ける。
道路標識の「東京まで90q」の文字が読めた。
 
「お〜〜〜、最速記録やない、コレ?
 kenちゃん、絶好調! おらおら軽トラなんて抜かしちゃうよ!」
 
「と、いうわけや、hyde。 もうちょっと我慢し」
 
「〜〜〜〜〜〜・・・じゃ、次オフコースのベストかけてよっ!」
「えー! アレかけると俺眠くなる」
「teっちゃんは別に運転してるんやないからエエやろっ!!!」
「次はプリプリを・・・・」
 
「オフコース!!!!」
「はい」
 
 
徐々に足に重みが増してくる。
足先に少し痺れを感じ始めた。
hydeはそれでも無碍に自分の膝の上にある足を
どかすことができないでいる。
 
車窓の桟に肘をかけ、
車内に流れるオフコースで気を紛らそうとしている。
 
サクラとは今ひとつ話が噛み合わない。
彼は出会った時から言いたいことをズバズバ言った。
やんわりとワンクッション置いての会話なんて最初っからなかった。
 
tetsuが見込んだドラマーというよりも、音合わせをした段階で
相性の合うドラマーだということはすぐにわかった。
でも、丸とか四角とか、三大欲や脳味噌の話を振られても、
返すことなんてできなかった。
 
kenとはそれなりに会話が成立しているようだし、
結構楽しそうにしてる。
 
やっぱ、頭エエもん同士やからかな?
なんて思う。
 
tetsuとだって、微妙な信頼関係を築きつつある。
 
でも、自分は?
これからつき合っていかなければならないバンド仲間。
プロのサポートドラマーで、尚かつこの外観にきつい口調。
ちょっと気後れしたものの、腹を括って接してきた。
 
なのに、こうやって重たい足を載っけられて不機嫌になっていても、
それを払いのけることもできないでいる。
 
俺って、なんでこうなんやろなぁ?
というよりも、なんでサクラにはこうなんやろ?
なんか構えてるんかな?
 
そんな自分にサクラが過剰に構ってくるその気持ちも、
わかるにはわかるのだ。
サクラは最初から自分をさらけ出し、
音よりもメンバーに溶け込もうとしてきた。
 
だけど自分は、「足が重いからどいて」の一言さえも
こんなに考えあぐねているのだ。
 
 
なんか俺ばっかが悪いみたい。
あ、ちょっとブルー入ってきたわ。
 
 
大好きなオフコースの楽曲も、
いつにも増して切なく、寂しく聞こえてくる。
 
車は御殿場を過ぎたところだ。
ステレオからはヴォーカルの透き通った声が
「I LOVE YOU」を奏でていた。
 
 
 
流されて 流されて 僕のところへ
 
どうしたの かわるこころ
 
あなたは僕を しあわせにしてるよ
 
誰もあなたの代わりになれはしないから
 
 
あぁはやく 九月になれば
 
I LOVE YOU  I LOVE YOU・・・・・
 

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