I'm・・・happy


この歌は大好きだ。
頬杖をついて窓の外の速い景色を眺めながらハミングする。
 
しかし歌も終盤になった頃、hydeの膝に載っていた足がズッと動くと、
いきなりサクラが起き上がり、助手席のtetsuに言った。
 
「teっちゃん。 今の曲、もー一回巻き戻して」
「お? 起きたんか、サクラ? hydeがサクラの足くっさーゆうとったで」
 
「俺の裸足は臭くない。 巻き戻してよ」
「なんやお前までぇー。 プリプリが遠のくやんか」
 
 
キュルキュルというテープが巻き戻される音の後、
再び澄んだ歌声がステレオからは流れ始めた。
 
サクラがhydeをチラッと睨む。
俺、足くっさーなんてゆうてないからと、妙に乾いた口でhydeが言おうとした時、
 
ずりずりずり〜〜
 
サクラの頭部がhydeのほうに倒れこんできた。
 
「足、くっさーで悪かったなー」
 
足の代わりに今度は膝の上にサクラの頭が載ってきた。
そしてダンッダンッと、サクラは反対側の窓ガラスに足の裏を引っ掛けた。
 
「ちょ・・ちょっとぉー」

いきなりのことで頭が回らない。
普段、メンバーにするような辛口の反撃がすぐに出てこない。


「I LOVE YOU〜・・・・お前、一緒に歌ってただろ?」
 
下から覗かれて少し妙な気分だ。
それから聞かれていたのが恥ずかしい。
 
「うん、好きだからこの曲」

仕方なく柄にもなく素直に答えた。

「ふーん」
サクラは真剣に歌に耳を澄ましているようだった。
そしてhydeは、やっぱりサクラをどかすことができないでいる。
 
「流されて流されて 僕のところへ・・・・
 あなたは僕を 幸せにしてるよ・・・・・か。
 この、I LOVE YOU〜って最後に繰り返すとこがいいよな」
 
「うん」
 
少しドキリとした。
同じ事を思っていたりした。
ドキリとした胸はそのまま痛くなるほどhydeの身体を打ち始めた。
 
 
ち・ちょっと待てよ、俺。
なんでこんなにドキドキしてんの?
 
あ・アレや。サクラが柄にもないこと言い始めるからや。
 
 
「九月になれば? 九月になったらなんなんだろうな?」
 
 
有り得ないところから自分を見てるサクラ。
hydeは自分の両手さえもどこに置けばいいのか分からない。
思い余って自分の背中と背もたれの間に入れる。
身体をなるべくサクラの頭から遠ざけるように反らす。
一向に胸のドキドキは治まらない。
 
なのにサクラといえば、「なー、九月になったらなんなんだよ?」
などと上目遣いで聞いてくる。
 
緊張して泣きそうだ。
「この歌、小田さんのLOVE SONGとか
 WEDDING SONGとかって言われてんの
 九月になったら愛してる人と会えるって歌なのかな?」

乾いてひっつきそうな喉を無理矢理開いて話しをする。
 
「あー、だから誰もあなたの代わりになれはしない・・・
 あなたのまま ここに居ればいい・・・なのか?」
「うん、たぶん」
 
「で、唐突にはやく九月になれと」
「ふふ」
 
「待ってらんねーと」
「はは・・」
 
「I LOVE YOU〜」
「ふふ・・・うん」
 
「エー曲やな〜」
ドッキーン!
 
まさかサクラがオフコースを、この曲を、
「エー曲」と言ってくれるとは思っていなかった。
それに自分と同じ感覚で、ひとつの曲のことを話せるなんて考えもしなかった。


なんだか嬉しい。 いや、哀しい?

わからない。 ちょっとショック。

嬉しいんだけど。 苦しい?
 
 
「九月か〜。 初秋。
 九月になったらhyde、お前東京に来いよ」


ドッキーン!!!
 

「え?」
「いや、8月でツアー終わって11月からまたツアーなんだろ?
 9月、10月引越しでいーんじゃね?」
「あ、あぁ、そ・そうだね」
 
 
駄目だ。
何をうろたえているんだ俺は?
でも、あかん。
なんか俺、ヤバいかも。
なんか急にキタかも。
 
 
hydeの膝の上でサクラは欠伸をし、伸びをする。
 
「このまんま寝ていい? 気持ちいーからさ。
 肉がちょっと足んねーけどな」
 
何ゆーてんにゃ!
俺、お前の彼女とかとちゃうねんぞ!
えー加減にせーよ、重たいねん!
俺が疲れるやろ!
なんで男に膝貸したらなあかんねん!
 
言いたいことは山ほどあるのに言えない。
そして足よりもこっちのほうがまだ許せるなんて。
 
 
「大っ人しいね〜? どーしたんだよ? 俺、ほんと寝ていい?」
「うん、いいよ。 もうすぐ着くし」
 
結構頑張って言った言葉がコレなんて。
 
「あ、そ。 じゃ、遠慮なく」
 
サクラは自分の胸のところで腕組をすると、目を瞑り寝の体勢に入る。
しかし、すぐに目を細く開けると、
 
「hyde、こっから見てるお前ってね、割と可愛いよ」
 
そんなことを笑いながら言うと、再び目を閉じ、そして寝息を立て始めた。
 

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