風の行方


9月、まだ夏の陽射しで蒸しかえる成田を発ち、
hydeたちはフランス経由でモロッコのカサブランカに到着した。
そこからマラケシュへ移動し、二日後、ロケ地であるアイド・ベン・ハトウのある
ワルザザードへと向かった。
 
ワルザザードはサハラの入口であり、カスパが周囲には点在している。
数あるカスパのなかからロケ地として選ばれたアイド・ベン・ハトウは、
「アラビアのロレンス」が撮影された有名なカスパだ。
移動バスの中でスタッフがこれで何度目かの同じ説明をする。
 
「今じゃマラケシュ(マラ消し)のほうが有名だよね〜」
「アラビアのロレンス」がどういう映画なのかそう興味もないkenは、
ロケバスの窮屈さを紛らすために、
昔ワイドショーから得たくだらない知識をみなに話し始めた。
 
ワルザザードで4日間の日程のうち、撮影で使われるのは正味三日。
昨日は撮影現場や足場の確認で一日が潰れた。
ホテルでスタッフと撮影行程の確認後、二日目の今日から本格的な撮影に入る。
 
hydeとtetsuはとっくの昔に日本が恋しくなり、海外ロケという名目に惹かれて
モロッコくんだりまでやってきたことを後悔していた。
 
「どこいっても匂うんやけどteっちゃん」
「ベネトンの店内さえ臭いってどーゆーこっちゃねん」
「自分こんな匂いついたらどーしよ」
「・・・・・・・・・・(そんなこと考えたないわ)」
 
サクラは現地で調達した太鼓が気に入り、
移動バスの中でもkenと話ながらポコポコ叩いている。
二人は宿泊先のホテルに自分たち以外の観光客がいないことを幸いに、
ホテルに帰ったら素っ裸になってプールで泳ごうなどという話をしているようだ。
 
サクラやkenのこういう柔軟なところが羨ましいとhydeは思う。
なんでも楽しいことにしてしまう才能が二人にはある。
「暑くて臭くて死にそう」なことが今現在の自分の最大の悩みなんてことは、
二人にとって考えもつかないことなのだろう。
 
アイド・ベン・ハトウ。
カスパはその土地の土と同じ色をしている。
自然と溶け込み一体化する。
黒い装束に身を包み民族太鼓を叩くサクラは、
迷路のように入り組んだ土色のカスパにすっかり溶け込んでいた。