「hyde・・・・まだ降りてきぃひんの?」
翌朝、朝食をとるためにホテルのレストランに集まった面々の中に、
hydeの姿が見当たらないのに気づきtetsuはスタッフに訊ねた。
朝食の時間は、その日のスケジュール確認と兼用である。
「あ、さっき梶田さん(映像プロデューサー)が見にいった」
kenが朝食のテーブルでhydeの彫った木彫りの猫をころころ転がしながら言った。
「hyde、昨日の土まみれの撮影が今日もう一度撮り直しって聞かされて
ご機嫌悪かったやん?シャワー浴びても髪の毛から土の匂いがして寝られへんって
もうめっちゃ不機嫌だったんよ」
木彫りの猫と目線を合わせながら、猫に囁くようにkenは続けた。
「今頃梶さん、hydeに虐められてなきゃええんやけどぉー」
サクラはその向かい側で椅子に座っている。
テーブルの端に裸足の足を引っ掛け、傍らに置いてある民族太鼓を人差し指でトンと弾いた。
丁度その時、首回りの汗をハンカチで拭きながら梶田がレストランに戻ってきた。
「hydeは?」
tetsuが梶田に聞く。
「いやぁ〜・・・・・」
梶田は更に噴き出した汗をせわしく拭きながら曖昧な返事をした。
その場の人間全ての視線を一身に受けながら、梶田は
「いやぁ、そのぉ〜」を繰り返すばかりだ。
もう一度梶田が「いやその・・・」を言ったところで、
「俺が見てきますわ」
サクラが太鼓をトトンと叩きながら立ち上がった。
「時間せいてるし、頼むわサクラ。 俺ら先に食うてるから」
tetsuは梶田に頭を下げ、椅子につくことを促しながら、
レストランを出るサクラに向けて言った。
その頃、hydeはさっきまで寝ころんでいたベッドから起き上がり、
そろそろ着替えて下に降りなければ本気で怒られるなと考えていた。
しかし、梶田の顔を思い出す度に笑いがこみ上げ、
再びベッドに寝転ぶと、くくく・・・という忍び笑い繰り返した。
梶田に部屋のドアを叩かれるまで、実は本当に寝ていた。
髪の毛に染みついたカスパを形成する土の匂いは、
hydeにいろいろな想像や疲れた身体に夢を見させ、熟睡をさせてくれなかった。
そのうちカスパの迷路のような道を誰かに呼ばれながら歩いている夢が、
本当に部屋のドアを叩き自分の名前を呼ぶ梶田の声とすり替わった。
砂塵の舞うアイド・ベン・ハトウで寝転ぶ自分を、満足げに見ていた梶田の顔を思い出した。
「はい、どうぞ」
hydeの声を確認すると、梶田は借りたサブキーで部屋に入っていった。
アイド・ベン・ハトウの大地に接吻するhydeの画を追加したいと二階に進言したのは自分だ。
それにより既に収録したものを取り直さなくてはならない事実に、
hydeがいい顔をしなかったのも分っている。
hydeが今朝の朝食兼ミーティングに顔を出さないのは、
少なからずそのことに対する意見なのであろうと梶田は思った。
「起きとるんかい、皆待っとるぞ」
部屋に入るなり強めの口調で言った。
低予算でカツカツのスケジュール、一分の余裕もこのロケにはない。
まして大スターでもない若造に甘い顔する理由など梶田にはない。
部屋の中で動くhydeの気配を感じることができず、
「まだベッドにおんのか」と視線をベッドに移動させ、梶田は息を呑んだ。
真白なパジャマを着たhydeが、ベッドの上でペタンと座っていた。
まだ完全に覚醒していない彼の瞼は軽く閉じ、反対に唇が薄く開いていた。
寝苦しい夜に着崩れたパジャマから細い肩が覗き、
そこにゆるくウェーブのかかる寝乱れた髪がのっている。
hydeの完璧な美少女ぶりを前に梶田は喉が渇くような飢えを感じた。
そしてその飢えを感じた事に戸惑った。
「起きてんならはよぅ来なさい。 みんな待ってるから」
そう言うのが精いっぱいで、梶田は慌てて部屋から飛び出した。
しかし、梶田の頭の中では先ほど映したhydeの残像が勝手に動き出していた。
気だるく髪をかきあげ、ベッドの上でしどけなく座った彼が、
真白なパジャマのボタンを一つずつ外していく。
下を向いた彼の睫毛は、黒く長く震えている。
身体の前を肌蹴た彼が顔を上げ、何か言おうと口を開く。
紅い舌がちろりと覗く。
「あり得ん」
早まりだした心臓の鼓動と、首筋にどっと噴き出た汗を感じながら、
梶田は仲間の待つレストランへ戻ったのだった。