接吻


櫻澤は複雑な心境で眼の前のソファで眠りこけている人物を眺めていた。
 
・・・・・・振り回されっぱなしの3日間だった。
 
数日前、「ラルクのtetsu」なる人物から電話を受け、
バンドのヘルプのつもりで大阪入りをした。
そうしたら、そのバンドに入ることにほぼなっているような状態で、
おまけにそんなことはとっくに「HAREM」にもなぜか実家にも話がいっていた。
トントン拍子にこっちに住むことが決まりそうで、
不動産屋の手続きが済むまではこの人の部屋で寝泊りしろと言われた。
その相手が、バンドのヴォーカル担当で、でっきり女だと思って戸惑ったら、
しっかり男でびっくりしたというのが櫻澤の一昨日の話である。
 
見てくれにも(綺麗で)驚いたけど、見た目と性格のギャップにも驚いた。
 
訳もわからず連れて行かれた3日間の同居人の部屋は、
思っていた以上に綺麗に掃除され整っていた。
意外と綺麗好きな櫻澤は、同居人も見た目はどうであれ男なのだから、
部屋の状態をそう期待していなかったため、内心ほっとしたのである。
 
しかし、ほっとしたのもつかの間。
 
翌朝、身体が半分以上飛び出たソファで寝かされた
寝ぼけ眼の櫻澤の目に飛び込んできたのは、
脱ぎ散らかした服で崩壊寸前の部屋と、
さらに崩壊を続けるお着替え中の同居人の姿であった。
 
「おはようございます。何してんの?」
「着替え決まらへんのよ」
 
同居人の足元には、脱いでそのままの服が幾重にも重なっていた。
 
「・・・いつも・・・こう」
 
汚いのかよと続けようとして、櫻澤は言い淀んだ。
まだ当分この男とは同居しなくてはならない。
つまらないことで波風を立てて居心地を悪くする必要もない。
それに、着替えが終わったらいくらなんでも片づけるだろうという判断だった。
 
 
「櫻澤さんが来る前日にteっちゃんとkenちゃんが来てね、
俺の部屋勝手に掃除しまくってったの。
服なんか出しっ放しのほうが何があるかすぐ分かってええのに、
全部クローゼットにしまい込んでいきよったから、どこに何があるか分からへん。
あ〜、イラつく〜」
 
ということは、本当はいつもこの状態? 嘘。
 
と、その時は思ったものだが、恐ろしいことに3日も一緒にいると
何と言うのか、慣れたくないのに慣れる。
 
その後、着の身着のままの櫻澤を散々待たせ、
どう取り繕ってもやっぱり女性に見えてしまう同居人はその日、
櫻澤を大阪のシンボル、大阪城へと連れて行った。

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