もしもの世界  〜ドイツ〜


人は誰しも、「もしも、あの時・・・」という瞬間が必ずある。
 
 
見慣れぬ天井をぼんやりと眺めながら、hydeは屈強な男達に
その華奢な身体を揺さぶられ続けていた。
もはや抵抗する気力すらないが、かえって思考は意外とはっきりとしている。
 
ここに連れ込まれてどれぐらい経つんやろ?
てっちゃんやkenちゃん・・・心配してるやろなぁ・・・。
俺、帰れるんやろか。
 
 
時間は数時間前に遡る。
日本での活動休止に伴い、ドイツの片田舎でhydeは久々の自由を満喫していた。
もちろん必要最小限のスタッフ付で、丸一日が自由気ままというわけではないが、
今まで怒涛のような日々を過ごしてきたhydeにとっては、
時間を気にせず好きな絵を描いたり、人目に煩わされることなく店に立ち寄って
買い物をしたりすることは、開放感という以外の何ものでもなかった。
 
そして今朝。
今日一日は、本当に自由にしていいと言われ、hydeはお気に入りの
スケッチブックを持ち、逗留している間借りした家から少し遠出をしたのである。
 
オープンカフェで一つのテーブルを陣取ると、そこから通り向こうに軒並ぶ店や、
行き交う人々を描き始めた。
 

初め、その男はhydeのテーブルから一つ隔てたところで彼のことを見ていた。
やがて、スケッチブックを覗き込むようにhydeの真後ろに立ち、それに気づいた
hydeが振り向くと、いかにも片田舎の朴訥な男というような気さくな微笑を返してきた。

「隣に座ってもいい?」

というような仕草をされ、「どうぞ」と応えると、しばらくhydeが描く絵を見、
その後今度は、

「自分を描いてくれないか?」

というジェスチャーをした。

少しはにかみながら男の顔を描き渡してやると、男は嬉しそうにその絵を持ち、
店の奥に行き、一杯のコーヒーを持ってテーブルに帰ってきた。
絵のお礼のブラックコーヒー?・・・・・、ちょっと苦手、困ったな。
でも、ここで砂糖をたんまり入れて飲むのも何だか男に失礼なような気がして、
日本のコーヒーより格段に苦いそれを飲んだところで、hydeの記憶はない。
 

気がついたときは、見慣れぬ部屋でスプリングの悪いベッドに寝かされていた。
ふいに、先ほどの男が視野に飛び込んでくる。
驚いて声を上げそうになると、分厚い手で口を塞がれた。
頭が少し重たくて痛い。自分の口を塞いでいる不愉快な手も払えないほど身体も重たい。

男は、hydeが描いた似顔絵をhydeの顔の前でちらつかせると、笑った。
しかし、hydeが描いた朴訥な笑い顔とは似ても似つかぬ下卑た笑いだ。
腹の奥底から湧き出るざわざわとした嫌な感覚に急かされて、
ベッドから起き上がろうとした時、その男とは反対側の方向から伸びた2本の手で、
hydeは簡単にベッドに押さえつけられた。
男の反対側には、hydeを押さえつけている男の他にもう一人男が立っている。
3人の男は、いずれもいやらしい笑いを顔に貼り付けながら、hydeを見下ろしていた。

「・・・nein!」

自分がこのあと、この男達に何をされるのかが容易に想像ができ、
恐怖に打ちのめされそうになりながらも、hydeは必死に口を塞ぐ手を振り解き叫んだ。

しかし3人の男達は、その叫びがまるで合図であるかのように、
hydeのしなやかな肢体に喰らいつき始めたのである。

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