「あっ!」
右手で髪を掴みその束を後ろ手に引っ張り上げると、hydeは顔をしかめ声を上げた。
「何すんにゃ、痛いやんか!」
薄く白い肩が、一部分だけうっすらと紅色に色味を帯びている。
「まったく、てっちゃんがあんなパフォーマーやったとはな〜」
歌ってる途中になんちゅうことすんねんっ。
彼は、彩ったその部分を指でさすりながら、フフフと笑う。
サクラはそれを凝視する。
また眩暈だ。
それをどうするのか、どうしたいのか、どうしなければいけないのか。
「サクラ? あ? わあぁぁぁ!」
薄く白い肩の一部分だけうっすらと紅色に色味帯びているそこに、サクラは歯を立てた。
ブツッと嫌な音がすると、鉄臭い液体が口の中に流れ込むのが分かる。
「痛い! い・痛い!! サクラ、やめ!」
hydeは、自分の身体から血が流れ出すのが分かり、そのおぞましさに身震いした。
「うっ、このっ!」
尚も自分の肩にむしゃぶりつき、全身の血をも吸い尽くす勢いのサクラを
無理矢理引き剥がすと、肩は痛みを通り越し、痺れた感覚さえもなくなりつつあった。
バシッ!
男の顔を容赦のない力で引っ叩く。
しかし、顔を叩かれた男は、ゆっくりとまたhydeに向き直る。
その男の穴のような真っ黒な目を見た時、hydeは思った。
闇だ
この男の闇
男が抱える闇
「阿呆! 何すんや! 離せ! 痛いゆうてんのが分からへんのかボケ!」
普段のhydeなら言うはずもないような言葉をサクラは無表情に聞きながら、
恐ろしいほどの力で彼を部屋の奥へと引っ張り、ベッドにその身体を叩きつけた。
身体を起こして逃げる暇も与えず、サクラはhydeの後ろから馬乗りになると、
身に纏っていた薄い衣服を力任せに引き裂いた。
「っ!??」
サクラが自分にしている行為が信じられない。
だが、次の瞬間には怒りと悔しさが込み上げ、
目の前の明かりが歪んで見え始める。
「サクラッ! お前! 何してんのか分かってんのんか!」
語尾が震えるのは恐怖からではなく、怒りからだ。
自分がこんな行為を受ける理由などないのだから。
「っ!!」
反応のない相手に更に非難の声を荒げようとしたとき、
hydeは、今や剥き出しにされた背中に激痛を感じた。
今度は背中、肩甲骨の辺りに噛み付かれたのだ。
「あ、あ、あっ! 痛っ! サクラッ!」
サクラは、暴れる彼の肩口を片方の手で押さえつけ、
もう片方の手はその翼の名残を、今だそこに翼があるかのように、
それを引きちぎらんがためとばかりに、酷く引掻き続ける。
やがて、彼の背中は噛み付き、引掻き付けられた傷跡で、
本当に翼がもぎ取られたかのような有様となった。
「はいど・・・hyde・・ハ・ィド・・・・・hyde・・・・」
痛みとショックで自失しているhydeに、
サクラは先ほどの様子とは打って変わる優しさでhydeの名を囁き続ける。
「お前・・・・いい加減にせえよ。 こんなことして、自分何様のつもりや」
身体を反転されながらhydeが言う。
怒りで震えながら、怒気を含んだ静かな口調で。
そして、澱みのない瞳で真っすぐにサクラを見つめ。
・・・・やっぱり綺麗だな・・・・・
サクラはhydeを見て思った。
「お前、何考えてんねんっ! 出てけ! ・顔見とうないわ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
行動の原因と彼の異常さを考える冷静さは、
突然の暴行による怒りで今のhydeにはない。
「行かへんなら俺が出てく。 今、お前と一緒にいとうない!」
押さえ込まれた身体をよじり、サクラの身体の下からすり抜けようとした時、
今度は両腕で抱きとめられた。
「hydeはどこにも行けない。 もう飛べないからここにいる。
俺と溶け合ってずっと一緒にいるんだ」
「?」
いつもと違う様相のサクラに初めて恐怖を覚え、その腕の中から逃げようとした途端、
骸(ムクロ)の如き暗い目をしたサクラがhydeに覆い被さり、
首にこびりついた血の痕を舌でなぞり始める。
「あ・・あ・・サ・サクラ・・・や・やめ・・・いやだ」
先ほどとは違い、今度は恐ろしさで語尾が震える。
心臓が早鐘となり、その鼓動に合わせ、背中の傷がズクズクと疼く。
サクラの手が引きちぎられた衣服から露出している肌を撫でる。
大きくて冷たい手。
胸の尖りに当たると、人差し指と親指がそれを摘み上げ、やわやわと転がし始めた。
hydeは、その、ある意思を持った動きに、
サクラが自分を今どんな対象にしようとしているのかを知る。
「何してるん?! サクラッ、 阿呆! 俺や、hydeやでっ?」
どうして自分がサクラの欲望の対象になり得るのか?
あの様子で、サクラは自分だと分かってこんなことをしているのか?
何だか様子がおかしい。
どうしたらいい?
いや、自分だと分かってやってるならこの状況は絶望的だ。
「サクラ〜? hyde〜? 大丈夫か〜?」
tetsuが扉越しに声を掛けてきた。おそらく傍にはkenもいるはずだ。
「あっ! て・てっちゃ・・・」
大声を出そうとしたところで、サクラの大きな手がhydeの口を塞ぐ。
力いっぱい押さえ込まれ、小さな頭が枕ごとベッドに沈む。
「大丈夫だ、tetsu!」
普段と変わらない声。
「hydeは?」
「寝てる。 疲れてるみたいだから」
「ふ〜ん、そうか。 んじゃ、あとよろしくな」
「あぁ! ・・・・・・・・・・・・・・・・まかしとけよ」
あぁ、サクラ? どうして? なぜ?
「う・・・・っ」
目の前で薄く笑うサクラの顔が滲み、ぼやけて見え始めた。