可愛い男


元はといえば趣味で始めたようなバンドである。
とはいえ、アルバムまで出しLIVEであれだけの集客をすれば、
もはや趣味として終わらせるわけにもいかない。
 
そんなことはとっくの昔に分かっている。
趣味みたいなものだと悪態をつくのは、
まだまだ自分のギターテクの稚拙さへの照れ隠しのようなものだ。
 
 
 
「どれどれ? ふーん。 指の先・・・結構硬くなってるね?
 大したもんやな、あんな短期間で。 そーとー弾き込んだ?」
 
「まあそれなりに。 金取る以上ヘタなもん見せられねーし。
 趣味の延長じゃもうやってけねーだろ? 都まで巻き込んで、離せよ」
 
 
隣に座った途端に自分の手を取り、裏返したり、押さえられたり、
hydeから入念なチェックを入れられたサクラは変に気恥ずかしくなった。
 
 
何なんだよ一体? 
おまけにずっとご機嫌さんじゃねーかよ。
早々に酔っ払ってでもいやがんのかよ?
 

取られていた手を乱暴に振り払い、
尚も話を続ける相手に「そんな話はもういいんだ」と目配せるも、
当の相手は知ってか知らずか、
サクラの気持ちも構わずに話を続ける。

 
「ところでサクラ、ドラマーとギタリストの違いってのあった?」
「大有りよ。 まずは立ちっぱなしだろ?」
「ハハッ! 当たり前やな」
 
「立ちっぱなしってアレがじゃねーぞ」
「阿呆」
 
「客席と近い」
「うんうん」
 
「あ、あとさ、屋外でLIVEやったんだけどね、寒いのよ。
 っつーとさ、指がかじかんでギターって上手く弾けないのね?」
 
「あー、寒い時の屋外は最悪だね? ヴォーカルだってなかなか
 喉が開いてくんなくて、直前まで暖めたりで大変やもん」
 
 
バンドのフロントとバック。
今までメンバーの背中を見ながら臨んできたLIVEが、
背中を預けながらのソレに変わった。
 
ギターとドラム。
弾きと打ち。
物理的に考えたってその違いは大きい。
 
メンバーのバックアップ的な形でしてきた煽りも、
自分如何が占める割合が大きくなった。
 
それらをひっくるめて何よりも違いを大きく感じたのは、
観客との距離だった。
 
客が放出する周波数を、以前よりもダイレクトに感じる。
 
そんなことを仕方なくだが、とうとうとhydeに語った。
彼はやはり穏やかに笑いながら、静かにそれを聞いていた。
 
 
だからそのなんつーの?
見守っているようなっていうの?
小さい子供の話を聞くようなよー。
楽しくって良かったねもパパ嬉しいよみたいな・・・・
そうそう! 父親みてーな眼差しやめろってのな!
 
 
折角こうして忙しい最中の二人が時間を割いて会っているのに、
のっけから気分の萎えそうなhydeの雰囲気に少々苛つく。
 
コノヤロー、いい気になりやがって。ちょっと一こと言ってやろーか。
そう思い、口を開き掛けた頃合いを見計らうかのようにhydeが言った。
 
 
「へぇー、サクラもギタリストらしくなったもんやな」
 
 
言われた瞬間、hydeに言ってやろうと思っていたことが、
 
「う」
 
次には一気に頭から消えた。
 
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