かたしろ
さくら
吐息のような呼びかけで不意に目が開いた。
自分は今、誰かに名前を呼ばれたはずだと天井を見上げている間に、
やっと意識が自分に追いつく。
次いで、あれは誰の声だったのかなと、緩慢な動きで脳が働き出す。
急に起こされたことで身体の末端への神経がまだ届かずにいる。
さくら
そして聞こえた声の持ち主が、今ここに在るはずがないことに気がついて、
一気に全てのものが覚醒する。
首を動かし、声のした方へと顔を向けると。
はたして彼はいた。
いつからそこにいたのかなどはどうでもいいことだ。
サクラは自分が向けた視線に静かに応えるhydeの気持ちの穏やかな波を
感じて思う。
「なんでいるの?」
しかし、そうだ。
寝ぼけて動きの半分以下になっている脳でも、その在りえなさは理解がで
きる。
目下、彼はツアーファイナルの真っ最中であった。
そして今現在は、遠征の地沖縄の降り墜ちてくるような星空の下のはずだ。
あー いてよかった あえてよかった ずっとあえなくて
きがくるうかとおもったよ
ずっと?
そんなに逢っていなかっただろうか?
つい最近にも逢ったような、それは気のせいのような。
その辺りはまだ頭に霞がかかっているように感じる。
逢えなくて気が狂っているのはもしや俺のほうだろうかと、ベッドに起きあが
り座り直したサクラにすり寄ってきたhydeの頬に触れてみた。
少しやつれて肉は落ちたがやわらかい肌。
実体だ。
どうであろうと彼だ。
とすればどうして?
ひとりできたんよ
「沖縄から? よく最終便に間に合ったな」
サクラの驚嘆する声にさらりと「そうね」とだけ言い返すと、hydeはじっとサク
ラを見つめた。
何か彼の眼からは全く精気を感じ取ることができず、サクラは自分に向けら
れるその虚のような眼に、どう応えればいいのかを考えあぐねていた。
「どうしたんだよ」
あたたかいね いきてるってかんじ
あぁ、そうだ。
さっきから触れてくるhydeの指は、自分の体温を奪い取るかと思うほどに冷
めている。
「暖めてほしいのか?」
少し気障かと面はゆく思われたのだが、確かにこれが今、彼が望むことで、
自分は早急にそうすべきだと、なぜかその時のサクラには得心がいった。
うん あたためてほしい
ゆっくりと自分に身体を預け、冷たい唇でサクラに吸い付くと、hydeは低く掠
れたような声で耳元で囁いた。
その後で入り込んできた舌もいつもと違い冷たい。
なのに舌は口の中で淫乱にサクラを追っている。
欲しがられている。
そう思うだけで、自分の身体の血が熱く湧き、股間に集まり疼かせる。
あぁ、さくら あたためてよおれを
痛いほど舌を吸われて唇を離すと、「ほしくてほしくてたまらない」と、言わん
ばかりの眼をしたhydeが軽く舌を舐める。
それこそたまらないなと思う。