Lies & Truth  


「俺を殺してくれない?」
 
そんな依頼をしてくるクライアントは、この世界に足を入れて、それ程経験を積んだ
わけではないが私にとっては初めてのことだった。
依頼の内容は人様々で、人にはそれぞれな事情があるものだ。
 
 
最初は冗談だと思った。
しかし、
クライアントとターゲットが同一ということは何かにつけて話が早く、楽な仕事だと経
験の浅い私は思い直した。
 
クライアントは「今をときめく花形〜〜」という形容詞がぴったりな
『L'Alc〜en〜Ciel』のヴォーカリスト。
そういう世界に疎い私でも名前は知っていた。
 
hyde
 
ラジオやTVで彼らの曲が流れない日はないほど、その時の彼らには勢いがあった。
報酬二千万の仕事のリスクは、「Carnival of True」と名付けられた彼らの96年のツ
アー最終日。12月27日に行われる大聴衆の日本武道館を、hydeの
血飛沫で終結さ
せることだった。
 
 
「さて、行きますか」
 
冬の外気がピリピリと肌を刺し始める夕刻。
会場近辺はこれから始まる饗宴への期待があちらこちらに揺らめいている。
私はその中で一人、外気以上の冷気を漂わせながら人混みを縫い、吸っていた煙草を
投げ捨てると、チケットに記載されているゲートへと向かっていった。
 
コンサート会場の入口は手荷物検査だけだ。
もちろんボディーチェックなどあるはずもない。
手ぶらの私は警備員からノーチェックで会場に入ることができた。
 
ホールには開演を待ちきれず右往左往するファンの姿があった。
hydeと同じような姿・形を真似た女子中高生から(hydeコスというらしい)
明らかに定時帰りのOL風情の女性。
パンクスタイルで身を固めた男女に、サラリーマン風の男性までいる。
 
こうなればパーカーにジーンズの取り立てて目立つ格好でもない自分も、
特に人目を引くということにはならないだろうと私は思った。
 
「hydeって色っぽいよね。 女の子みたいだし」
「変な趣味の男にもモテてそうだよな?」
「あれだけ綺麗じゃ性別関係ないでしょ? hydeが他のメンバーと絡んでるのを見るの
 もLIVEの楽しみのひとつ!目の前でやられると絶叫しちゃうよね」
「勝手にしてろよっ! 何でお前、こいつ等のコンサートに俺を誘うの?」
 
私の耳に、目の前のカップルの会話が入ってきた。
hydeがくれた公式から横流しする予定だったチケットの1枚を手に、流れのまま入った
会場でステージと自分の位置との間合いを計る。
ホールど真ん中、前より4列目、直ぐ横は通路。
自分の席の大体のことはあらかじめネットで確認済みだった。
ステージ上のドラムセットを少し見上げる感じだが、別段障害になるものもない。
 
パーカーの上からジーンズと腹の間に差し込んであるSIG社製P228を触る。
私の掌に簡単に隠れる割とコンパクトな銃身だ。
この銃は高い射撃精度を持つ上にデコッキングからマグチェンまで片手で操作できる。
装弾数が13発の即座に撃てる構造ではあるが、この環境ではせいぜい2発までが
限界だろう。
 
客電が落ちた。
湧き上がる場内。
ステージは既に光の洪水となり、光源の中から次々とメンバーが現れた。
最後に中性的な容姿をしたhydeが両腕を大きく広げ、客を存分に煽りながら出てきた。

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