Lies & Truth  


コンサートの日まで会場の下見をし、hydeの葬送曲を聴き、選んだ銃を馴染ませ
ながら
善良な一般市民の生活をしていた私に、モリタからまた電話が来た。
 
 
「モリタさんから直接なんて珍しいですね」
「急にだったからね」
 
「急に・・・何です?」
「いやその前に、例のクライアントどうだった?」
 
どうだった?って・・どういう意味だろうか?
 
そう自問した私の脳裏に、膝を抱えて淋しそうにしているhydeの姿が浮かんだ。
 
 
「可愛いかっただろ? hydeちゃん」
 
・・・・・・・あぁ、そうか。 モリタさんは表の仕事柄、番組内でhydeと今までに何度か
会っているのか。
hydeも自分の殺しの依頼をした相手が彼だとは夢にも思っていないだろう。
 
 
「で? 何ですか?」
「あれ? てっきり君のことだから、hydeちゃんにしっかり手を出したんじゃないの?
 なんて思ってたんだけど?」
 
「私のことをどんな人間だと思っているんですか? これでも仕事と私情はきっちり
 分けてるつもりですけどね」
「私情ってことは、ちょっとはそんな気になったってこと〜? あんな弱ってるhyちゃん
 前にして
よく我慢できたねー」
 
 
ムカつくなぁ、このオヤジ。
 
 
「可愛いも何も、あんなまだ子供みたいな。 それに明後日には殺す相手です」 
「あら、そぉお? んじゃ、くれぐれも私情は挟まない方向で。 でさ、その子供に明日
 もう一度会ってやってくれないかなぁ」
 
「どうしてですか?」
「会ってくれたらもう一本、上乗せしてくれるってゆーからさー」
 
「・・・・・で、引き受けたんですね」
「そゆことー。 んじゃよろしくうぅっ!」
 
  
何が「よろしくうぅっ!」だ、この強欲ジジィッ!
 
 
 
依頼日2日前。
 
会って今更どうしたいというのだろうか?
hydeの意図が掴めず、モリタからの直電じゃ仕方ないと渋々再びハイドのマンション
まで赴き、玄関で部屋番号を押す。
「開いてるよ〜〜」
 
相変わらず緊張感のない間延びした返事が返ってきた。
 
2階のハイドの部屋。
「開いてるから入って」
扉を開けても最初のときのようなお出迎えはなかった。
変わりに、陰湿な空気が身体に纏わりついてきた。
 
なんだろう?と一瞬神経を尖らす。
 
歩を進め、見覚えのあるリビングへと進む。
 
hydeはソファに座りながら頭だけこちらを向け私を観ていた。
部屋に篭るアルコールの匂い。
テーブル上には高そうなブランディーやらワインやらの空き瓶が転がっていた。
 
「お久し振り〜、いらった〜〜い・・んふふ〜」
 
依頼日は明後日だが、明日はファイナル初日だというのにhydeは盛大に酔っ払って
いるようだった。
 
「一千万の追加報酬の対価はあなたとここで呑むことなんですか?」
「あなたじゃなくて〜、hydeちゃんでしょ、ハッイッドォ〜〜」
 
スッタカートで言っても全然可愛くないと思いながら、目の前の酔っぱらいをソファから
引き摺り下ろし、自分がそこに座るとhydeに聞いた。
 
「それで、何なんです?」
「俺、客なのに酷くない?」
 
hydeは床に座ったまま、ソファに頭をもたれさせ私を仰ぎ見た。
 
「だから来てあげたんです。 話して下さい」
「まあまあ、そんな焦んないでよ、せっかちさ〜ん♪」
「この場で依頼をコンプリートしましょうか?」
「はいはい」
 
「あのね、あの日、あなたが帰った後ね、アイツが久し振りに帰ってきたの〜」
「よかったじゃないですか」
「うん。 もうここでは会えないと思ってたからね」
 
 
それでね、やっぱ最後には抱いて欲しいなって思うやん?
「抱いてよ」って言ったらさ、向こうはこっちの事情なんて知らないわけだから、
きっぱり断ってくれちゃったわけ〜、人の気も知らんと。
 
hydeはテーブルの上のブランディーをグラスになみなみと注ぐと、一気に飲み干した。
 
「うっぷ・・・・おまけにさ、何やっての?
 「俺はもうラルクじゃやってけない。 ラルクを辞めたい」ってさ、何?
 何なんやっ!
 自分ばっか深刻に悩んでるみたいな態度で!
 それ薬のせいなんか? それともラルクのせいで薬なんか?
 全然わからへんわ、お前のことっ!
 甘えるのも大概にせぇよっ! ほんまおぼっちゃまや!!」
 
 
アルコールの勢いも手伝って、hydeの怒り方は、まるでヒステリックを起こした
女のように激しかった。
飲んで空になったグラスを壁に投げつけ、更にワインをボトルごと口にした。
 
 
「なんで俺に言われへんのやっ!!」
 
 
散々ドラムの男に対して悪態をついていたhydeは、最後にそう叫ぶとソファの下で
縮こませていた身体をテーブルに突っ伏して泣き出した。
テーブルの上のボトルやグラスがガシャガシャと音を立てて倒れた。
大の男がこんなに自分の感情を露わにして泣きじゃくるところを見たことのなかった私は、
しばらく呆気にとられソファに座わったまま硬直してしまった。
 
hydeの怒りはなかなか納まりそうにもない様子だった。
こんなに泣いて明日のLIVEに響かないのだろうかと心配してしまうほどであった。
 
「そんなに泣いたら明日、目が腫れてしまうんじゃないですか?」
 
思わず私は、泣きじゃくるhydeの小さな背中をそっと撫でた。
背中がしゃくり上げる度に震えるのが痛ましくて見ていられず、それだけでもとめて欲しい
と思った。
明後日には私に殺されるというのに、身も心も遠のいた男のことをなぜそうも思
続けることができるのだろう?
ドラムの男は、hydeにとってそれほどまでに彼の全てだとでも言うのだろうか?
 
突然、目の前の背中が立ち上がると、hydeが私のほうに向き直った。
顔は涙でグショグショで、目はやはり少し充血していた。
手の甲で拭いても拭いても涙はまだ流れ出してくる。
hydeは涙で濡れた両手を私の方へ差し出すと、そのまま倒れ込んできた。
細くて軽い体は私の腕の中にすっぽりと納まった。
 
「どうしたんですか?」
「ぎゅってしてよ」
「これが追加契約ですか?」
「寂しいんやもん。 アイツはようしてくれたんやもん」
 
「依頼を白紙に戻すこともできますよ? 今なら50%の損害料で済みます」
「ふふ。 あなたは優しいね」
「そうでもありません」
「俺も。 俺も、全然優しくなんかないんよ。 俺、捕まったアイツなんて見たないん。
 その後のラルクも考えたくもない・・・・・・」
 
 
「だから、ちょっと依頼内容の変更なんだけどね」
 
 
 
今までの声色とは違う、ここに入ってきたときに感じたあの陰湿な雰囲気がhydeからは
漂っていた。私は少し胸が躍る気がした。
 
「話を聞きましょうか?」
私は口の端が僅かに上がっているのが分かった。