私が再び静かに善良な市民生活を営んでいるこの二週間、
新聞を初め各種誌面やTVのワイドショーは、人気ロックバンドのドラマーと
怪しい組織との爛れた関係を連日報道し続けた。
ラルクも彼も守ろうとしたhydeの思惑は大いにアテが外れたというわけだ。
事務所は、熱狂的なファンの単独凶行という形で蹴りをつけたかったようだが、
もともと噂のあったところにそれらしい情報をまことしやかに誰かが流したため
(まぁ、察しはついている)、一気にゴシップ戦争にもつれこんだ。
hydeはそのトバッチリを受けたこれから益々活躍を有望視されていた
悲劇のヴォーカリストというありがたい称号をもらった。
専用の携帯電話が鳴る。
「だから、どうしてモリタさんが直接掛けて来るんですかっ?」
「いや〜、君の声聞きたくて〜」
玄関のチャイムまで鳴る。
善良な一般市民の私はうらぶれた2Kアパートに住んでいる。
宅配便か何かだろう。
「誰か来ましたから切ります」
「あー、待ってるから、切らないでってか切らない方がいいよ」
??????
ウザいなー。
携帯を肩と顎で挟みながら、印鑑を持って扉を開ける。
「すみません、電話中で。 お待たせしま・・し・・・」
再び閉める。
「モリタさん? どういうことか説明してくれませんか?」
「あ、荷物届いた?」
「説明」
「いやぁ〜、結構大変だったのよ。病院懐柔したり、脅したり、
美濃のと折り合いつけたりね」
「美濃興業と? 大丈夫なんですか?」
「当たり前でしょ。この世界、俺と美濃と数名でやっと均衡保ってんだから。
持ちつ持たれつってね」
「美濃のシマ潰すような情報流しておいてよくそんなこと言えますね?
モリタさんでしょ、あれ?」
「う〜ん、誰かさんはココ最近、やけに好き勝手なことしてくれちゃってる
からご挨拶で。
でさ、君がhydeと交わした契約金。
大幅に足がでちゃって俺ったら大損なのよ。
その上その荷物まで俺が預かってあげる筋合いもないじゃない?」
「何で私なんですかっ? ガクとかいるじゃないですかっ!
モロ好みでしょ、アイツの!」
「あ? ガッちゃん?
駄目駄目! あんな奴んとこ預けたらどうなっちゃうか分っかんないでしょ」
「だからって何で私?」
「え、荷物のご希望だから。 君の勘の良さと腕っぷし諸々に惚れたらしいよ。
憎いね、この色男!!っつーか、やっぱhydeちゃんと何かあった?
ま、そこらへんは今度ゆっくり。 んじゃ、よろしくぅぅぅうううううう〜〜〜〜」
ブチッ!! ツーーーーーーーーーーー・・・・・・
荷 物 の 希 望 ?
ほったらかしにしていた外の荷物が騒ぎ出した。
「ちょっとーーー、サクラさーーん! ここ開けてよーー!!」
五月蠅いな! そのドア安普請なんだからそんなに叩くな!
「・・・・・・・無視する気かよ・・・・・櫻澤ーーー!!
マイ・ダーーリーーーンッ!
ここ開けてーー! お願いーー!
俺、トイレ行きたいのーーー!
オシッコ漏れちゃうよーー!!」
ヒーーーー!!!
私の善良で安泰な一般市民の生活がーーーー!!!
L'Alc〜en〜Cileのカリスマヴォーカリストhydeは、
ドラマー桜庭が起こした不祥事の巻き添えを喰らって射殺される。
が、
実際は桜庭の頭蓋骨を貫通した弾はhydeの胸のど真ん中に当たり、
胸骨にめり込んだところで止まった。
弾丸は、hydeの胸に星型の傷をつけただけだった。
桜庭は薬を買う反面、その資金づくりの為に自らもバイヤーとなり、
美濃に反感を抱く者を掌握し、そのツテで中国から精製ずみのヘロインを購入。
都内で鎮痛剤などの増量剤を10代の若者たちに混入させ売り、
美濃とは別ルートの販路を拡大していた。
そこら辺は妙に頭の回る男だったようだ。
hydeは薬と桜庭の繋がりを調べているうちにそのことに気がつき、
その時点で桜庭のこともバンドのことも見切りをつけたらしい。
hydeは桜庭のルートに関わっていた人間達のリストを作成していた。
桜庭の仲間だということと、それなりの大金を掴ませれば
10代そこそこの若い奴らが関与している発展途中の密売ルートの情報など
いくらでも知ることができただろう。
このリストに上がっている人間の名前を一つ一つ調べ上げていけば、
美濃にとっては裏切り者のシマ荒らしを知ることもできる。
しかしその反面、それなりの筋にリストが渡れば、
美濃が打撃を被る要因にもなりかねるものだ。
後から知ったことなのだが、hydeはラルクに見切りをつけた時点で
次のバンドのことを考えていたようだ。
事件のほとぼりが冷めた頃に、「ゾンビーズ」とかいうラルクのコピーバンドで、
hyde激似のヴォーカリストとして出るつもりでいる。
逞しいと言うか、なんと言うか。
彼の言ったとおり、虚像の世界だ。
いつまでも真実は闇の中で、
何が嘘なのか本当なのかそのうち誰も分からなくなるだろう。
あのhydeのことだ、きっと嘘を真実にして何事もなかったように・・・・・・・
いや、事件のことでさえもバンドの肥やしにしていくに違いない。
hydeはその時の出資元を美濃興業に、とプッシュしている。
もちろんリストの影をちらつかせてだ。
リストはモリタに預けてある。 契約金以上にモリタに使わせたお詫びだそうだ。
その代わり、モリタから美濃に口添えを頼んだ。
hydeは、お互いに牽制し合う二人を後ろ盾として同時に確保したということだ。
あまりの狡猾さに私は開いた口が塞がらなかった。
そんなhydeだが、モリタや美濃本人のことは何も知らない。
彼らが誰だか知ったら、きっと腰を抜かすだろう。
しかし、一般市民で人目に立たない生活をコツコツとしているハズの私としては、
自宅の玄関先で綺麗な男に「ダーリン、オシッコー!」
などと叫ばれるなんてあり得ないことだ。
速攻でドアを開け、玄関で突っ立っているhydeを力任せに部屋に引っ張り込んだ。
二週間振りに会ったhydeは少しやつれてはいたが、
相変わらず綺麗だと思えるに充分な容姿だった。
上半身に撒かれた包帯は、やけにhydeに似合っていた。
「・・・・・・・どうしてココに来たんですか?」
「モリタさんの中人に教えてもらったの」
「そうじゃなく、どうして私のところに来たんですか?」
「サクラさんが俺を殺さなかったから」
「あなたは最後にラルクを殺せとは言いましたが、
自分を殺せとは言いませんでしたから」
「嘘。 そんなん言い訳や」
「・・・確かに。 私はあの時、あなたを撃ち殺すことを躊躇ましたね」
「どうして?」
「これからも本当のあなたを見てみたいと思ったからでしょう」
「これから先の俺が俺(真実)だとは限らへんよ?」
「安心してください。
これでも他の人よりかはあなたの虚構の部分には理解があります。
それから、あれがあなたの依頼内容だったと私は思っていますが、
違いますか?
・・・・・どうして私の腰に手を回すんです?」
「だってサクラさん、今のってさ、うっかり俺のこと口説いてない?」
「えっ?! どうしてそうなるんですか?」
「口説いてるよ」
全くこの世の中は、『Lies & Truth』だ。
たくさんの嘘と一握りの真実で構成されている。
だから皆真実に憧れ、真実を追う。
だが、嘘もなければ世の中味気ないし、上手くまわらない。
そして、時にはその嘘が真実になり替わることだってある。
「それは嘘です、あり得ません」
「いーや、俺が口説かれちゃったんだからほんまやろ?」
「欺瞞です」
「Truthや」