秀人は東京都内にあるA学院高等部の2年生だ。
父親は個人病院を経営、母親は日米を行き来する辣腕企業弁護士だ。
ほとんど家にいない忙しい両親と弟、母方の祖母の5人で、都内の高
級マンションに住んでいる。
将来は母親のような弁護士になることに憧れているため(要するにマザ
コンである)、中等部より成績は常に上位をキープする努力は全く惜し
んでいない。
性格はいたって温厚。
幼少より祖母の手で育てられたためか、昨今の若者のように街に
繰り出してゲーセンや、カラオケボックスで余暇を費やすより、祖母と
茶をすすりながらNHKの「盆栽教室」を観て部屋の盆栽の手入れをし
たり、料理番組で覚えたレシピを祖母と一緒に挑戦したりすることの方
を好むという、年寄り臭い面が多分にある。
多少運動オンチではあるものの、成績優秀で経済的にも恵まれ、
その性格から両親はもとより祖母からも可愛がれ、教師やクラスメート
からは信認の厚い彼。
が、そんな人生の勝ち組み予備軍のような秀人でも、彼なりの悩みという
ものは当然ある。
それは、自他共に認める女顔であるということだ。
くだらないと思うだろ?
だけど、悩みなんていうものは人それぞれで千差万別だ。
そしてこれは、秀人にとってかなりのコンプレックスであるようだ。
A学院の高等部に入るまで、共学であった幼稚部・小・中学部在籍中は、
その女顔のせいで辛酸を舐めた思い出のほうが多い。
そして、男子学部となった高等部に進級するや否や、彼は何を思ったのか
全く度の入っていない黒縁の伊達眼鏡で、その秀麗な顔立ちを隠そうという
試みに出た。しかし、世間の流行に疎い彼は、却って昨今の眼鏡っ子ブー
ムに便乗してしまい、一部の男子生徒の未知なる扉を開いてしまったという
過去もある。
どう転んでも結局はそういう運命なのだ。
というより、最初からそんな努力は無駄だ。
なぜかといと、
両親も間違うほど瓜二つな双子の弟、俺、秀が同じクラスにいるからだ。
秀人がいくら顔を隠したって、同じ顔をしてる俺がぴったり側にひっついている
んだから。
そうして俺は今、ベッドの上で寝ぼけ眼で座っている秀人に朝っぱらから
濃厚なキスをぶちかましている。
「いい加減起きなよ、秀人」
「う・・ん」
唇から離れると、強く吸い付かれた秀人の唇が薔薇みたいに色づいて、
俺は登校前だからって自制するのが苦しい。
秀人の目はまだ瞑ったままだ。彼は低血圧で朝が滅法弱い。
双子の俺にはそんな症状はない。
他のことでは結構テキパキやる秀人が、こんなふうに朝だけぼーっとしてる
のは、まるで開花まえの蕾みたいで俺にはたまらない。
祖母のナナさんが起こしに来る前に、こうやって秀人といちゃいちゃするのが
(一方的に)朝の俺の楽しみ。
言い換えると、ナナさんが来るから俺の自制心も効いてると言える。
「子猫ちゃんたち、起きてるのかしら〜?」
ナナさんだ。
グッドタイミング。 もうちょっと遅かったら秀人の首に痣が浮き上がってるとこ
ろだった。
「うん、ナナさん、今行くから」
おばあちゃんと言われるには若い祖母は、自分のことを「ナナさんと呼べ」と
言っている。
「早く、秀人」
「秀・・・身体痛い。 激しすぎだよ、夜」
「しょーがないでしょ。 秀人が可愛い声出すからだよ」
そっ。
そして俺達は、男同士で双子の兄弟でありながらそーゆーことをしてる。
もちろんまっとうな兄弟に成長する道もあったのだろうけど、俺達はというか、
俺はそうならなかった。
俺がSEXに目覚めたのは5歳の時。
二週間振りに揃って帰ってきた両親を驚かせようと、寝室のクローゼットに
隠れていた俺の前で両親はおっ始めた。
凄く楽しそうで、気持ちよさそうで、5歳の俺はたまらずクローゼットから
飛び出て絡み合ってる二人に聞いたんだ。
「ねぇ! 二人とも何してるの!?」
目が点の母親はしばらくして俺をベッドに引き寄せるとこう言った。
「SEXっていうのよ。世の中で一番素敵で幸せなこと。 無限で広大なこと」
「だから秀も大人になったら、自分が大切と思う人とSEXしなさいね」
ここまで聞くとなんてエー話やと思うだろう?
しかし、俺はそこで「大切な人」=「秀人」を直結させてしまったんだ。
そうすると、次にはなんて可愛い兄弟愛だと思うだろう?
だけど、それは微妙に歪んだ兄弟愛だった。
もはや、俺にもともとそういう気があったのだと割り切るしかない。
だって俺はその時、秀人に父が母にしていたようなことをして、「あんあん」
言わせて悦ばせてあげたい! なんて真剣に思ったんだから。
以来、俺の人生は秀人一色。
両親の部屋から追い出されたその足で秀人の部屋に向かうと、ベッドでウトウト
してる秀人に覆い被さってキスをした。
びっくりしてる秀人に、
「秀人を好きだっていう証拠なんだよー」
なんて適当なことを(ヤリたいから)言ったような覚えがある。
5歳の天使のような可愛らしくあどけない秀人は、
「じゃ、僕も秀にしてあげる」
なんて男心をくすぐるようなことを言ってキスを返してくれたっけ。
くー、くぁわあいかったなー、秀人。
今でも可愛いけど。
俺、今、あの頃の秀人と出会ってもデキるかもな。
モフモフとナナさんお手製のクロワッサンを食べている秀人に、あの頃の面影を
重ね合わせる。
充分重なる!
あー、俺ってほんと幸せっ!
もちろん、その時それ以上のことは身体の構造上俺にはできなかったし、
その後はきちんとした性知識が入ってきたから、なかなか進展はしなかった。
とはいっても、キスしたり一緒に風呂に入ったりというのは、思春期の二人の間でも
俺の努力の甲斐あって日常だったんだけどね。
でも、その間に秀人に好きな女の子ができたり、そんなんでキス以上のことをしよう
とすると殴られたり。
俺はその間も「その時」のためにかなり努力してたんだけど、俺の春は結構遅かった
んだな。
ま、そこら辺のことは置いといて。
そろそろ家を出ないと遅刻してしまう。