マンションエントランスのセキュリティーを解除して入ると、いつもそこには委託業者の
ガードマンが立っている。
一時間前に登校した俺達が、TAXI横付けで帰宅したことに、彼は心配そうな顔をした。
おまけに秀人は、登校前には着ていなかったサイズの合わないジャケットを羽織り、
項垂れた顔は蒼白だった。
「お疲れさま。 ちょっと電車に酔っちゃって。 夜中までゲームで寝不足のせいかな?」
別に秀人が悪いわけでもないんだけど、なんだか今、他人に秀人を見せたくなくて、
俺はいつもは彼なんか無視してエレベーター直行のくせに、変に愛想よくして彼の
不安を取り除いた。
彼のその興味津々な視線を少しでも早く秀人から遠ざけたかった。
彼は俺に話しかけられたことに気をよくし、ちょっと肩をすくめて「お大事に」と返した。
フロント前を通り過ぎると同じ視線を感じたので、俺はまた同じお愛想を振りまかなくては
ならなかった。
「お祖母様はお出かけになられてますよ」
「うん、知ってるよ。 二人で大丈夫。 ありがとう」
余計な会話を交わしたくなくて、最小限度の言葉でその会話に終止符を打った。
帰宅してもナナさんはいない。
でも、家の中は綺麗に掃除されている。
バスタブもピカピカに磨き上げられているのを確認して、給湯スイッチを押す。
その間に秀人はジャケットを脱ぎながらリビングへと入っていった。
リビングに行くまでに長い廊下に放かったままになっている二人分の鞄。
それぞれの部屋に投げ込むと、俺も秀人に続いてリビングに入る。
秀人は冷蔵庫のミネラルウォーターのボトルに直接口を付け、ゴクゴクと喉を鳴らしながら
飲んでいた。
仰け反った秀人の白い首に喉仏が綺麗に浮き出ている。それが秀人の喉が鳴る度に不
思議な動きをする。
俺は、どんなコンピューターでもプログラムできないだろう複雑な動きを連続し、
乾いた秀人の喉を潤すその骨にしばらく見惚れていた。
口の端から水を滴らし、どっかの変態に汚された学生服を着たまま、口を手の甲で拭って
いる秀人は一瞬ドキリとするほど卑猥に見えた。
「秀人」
「何?」
水で濡れた唇が紅い。
「早く脱いじゃってよ、そんな服」
「ん、気持ち悪いんだけど、脱ぐために触るのも気持ち悪いんだ」
どーしよ?
なんて、ジレンマに小首傾げて困った顔。
それって俺に何とかしてって甘えてんの?
そんな格好(精液で汚れた服)で、さっきまで恥辱で泣いてた目で見るなんて。
俺の嗜虐心に火が点いちゃうじゃないか。
秀人の天然ちゃんめー。
「ふふっ」
俺はシンクの引き出しからキッチンバサミを取り出した。
「あー、成る程ね。 切っちゃえば触らずに脱げるよね」
って、別に俺が脱がしてやってもいーんだけど、なんかこーゆーの一回やってみたかった
んだよ。
ジャキッ ジャキッと上着のボタンを切り落としていくうちに、秀人の胸が露わになってくる。
真っ白で薄い胸に傷一つない本当に綺麗な肌だ。
ここに直接ではないにしろ、自分以外の男のものがぶっかけられたなんて。
今思い出しても、怒りでハサミを持つ手が震えてくる。
容赦なく上着も、そしてズボンも下着ごと切り刻んで秀人を素っ裸にした。
秀人は文句も言わずに俺の成すが儘にいる。
俺は夢中で秀人の肌の上にハサミを滑らせた。
足元に衣服の切りくずが重なって落ちていった。
全ての汚れが秀人から取り除かれ、俺がシンクにハサミを投げ入れると秀人は言った。
「ごめんね、秀」
秀人がなぜ謝ったのだか理解できなくて彼を見る。
「僕がもっと抵抗していれば、きっと相手だってあそこまでやらなかったよね?」
秀人がそんなことを思うなんておかしいよ。
「秀人は全然悪くない。 満員電車で抵抗もなにもできないだろ? それに、「助けて、痴漢
されてる!」なんて俺だって言えないよ。
あんなことするヤツがおかしいんだ。 罰でアソコが腐ってもげちゃえばいいんだ!」
「秀、僕のこと怒ってないの?」
俺は驚いて口が「へ?」のまま閉じなかった。
「な・なんで?」
「弱虫だなって思わなかった? ハサミで服を切ってる間、なんか秀恐かったよ。 怒ってる
みたいでさ」
それで身動きひとつしないで俺の成すがままになってたってわけ?
ちょっと胸ドキドキさせながら?
まるで怯える子ウサギちゃん状態だったってこと?
駄目! 俺もう我慢の限界ね。 裸にしたことだしね。
「秀人、可愛いーよ」
裸の秀人を抱き寄せる。
「怒ってるわけないじゃん。 でもね、俺すっごく嫌だったんだ。 目の前で嫌なことされて
泣いてる秀人を見てるだけで、焦って何もできなかった。 もっとやりようがあったのに」
それに、秀人を電車から連れ出したあの男にもカチンときたんだ。
秀人の周りで手をこまねいて見てるだけの俺と違って、全然大人って感じだった。
電車の中で秀人の状態に気づいていたら、彼ならきっとスマートに秀人を助けていただろう。
「それこそ、秀がそんなに落ち込むことじゃないだろ?
僕たちにこんな思いさせたんだ、きっと今頃あの痴漢野郎には酷い天罰が下ってる」
「そうだね」
うん、それとついでにあの男にも、ちょっと悪いことなんか起こっていたらいいななんて思う。
こういうのって逆恨みっていうんだろうな。
秀人にキスしようと顔を近づけたら下を向いて拒まれた。
「どーしたの? 秀人。 気分悪いの?」
「違うよ」
あぁ、そうだよね。
あんな目に遭ったばかりなのに。
まだ気持ちだって落ち着いてないのに。
俺もデリカシーないよね。
「うん、分かった。 ごめん。 お風呂入ろうか?」
バスタブにはもう湯がたっぷり入っている。
シャワーも目一杯出して少しゆっくりしよう。
秀人の気持ちが落ち着いたら、ナナさんが帰ってくるまで秀人を抱っこして寝よ。
夜もずっと秀人のベッドで一緒に寝たい。
俺だってちょっとショック受けてんだから、それくらいしてもいいよね?
でも今日は・・・・×かなぁ? さみし〜〜〜。
そう一応覚悟(?)は決めていたんだけど、やっぱり秀人は考えることも言うことも可愛くって、
全てが俺のドツボだ。
刻んだ汚物はかき集めてビニール袋に入れた。
ナナさんに見つかると心配するから、後でこっそり捨てておくつもりだ。
裸の秀人の手を引っ張ってバスルームに連れていく。
先に入った秀人の身体にシャワーの湯がはじく音がし始めて、俺はその身体がうっすらと
桃色に染まっていくのを想像する。
少し下肢の存在が気になってきたんだけど?
ちょっと俺、こんな状態で我慢できるかな?
でも、秀人をこれ以上悲しませたくないから我慢しよう。
俺って・・・・。
溜息つきながらバスルームに入っていくと、秀人は俺のほうに振り向いた。
頭からシャワーを浴びて細い髪から滴が落ちてる。 綺麗だ。
秀人の表情はさっきよりも穏やかで、落ち着いているようだった。
「秀。 あのさ、さっきキスして欲しくなかったのはね」
「うん?」
「僕、汚かったから。 だから秀にキスしてもらいたくなかったんだ」
「ぐ・・・(絶句)
こんな可愛い台詞が似合う男なんて、いや女の子だっていないと自信を持って断言できる!
「ひでと」
シャワーで暖まっているはずなのに、絡んできた秀人の舌はいつもより冷えてるような気がした。
「ん・・しゅう。 僕、汚くないよね?」
な・ないないないないないないないない!!!! あるわけない!!!
「でもね、まだあいつらに触られた感触が残ってて気持ち悪いんだ。 秀、何とかして」
うわーん、秀人。 隅々まで綺麗にしてあげるよ〜〜〜
・・・・・・・・・・・・・・ちょっと待て。
「あいつ「ら」?」
「あ、う〜ん」
「秀人! 相手って二人だったのか?」
「気のせいかもしれないけどね」
チクショー!! 二人ってなんだよ。 前から後ろからってことだったのか!?
っつーとやっぱりあの脂身野郎と鞄野郎だったんだな!
くっそーーーー、俺も二人いたらいいのにっ!
・・・・・・あぁ!!
こんな思考に走るなんて。 俺、今の相当ショックだったみたい。
「秀人・・・」
「何? 秀、顔恐いよ」
「どんなことされたんだよっ!」
「・・・・・それ言わなきゃ駄目なの?」
「駄目! 秀人が何されたのか知らずにいるなんて我慢ならない」
我慢ならない、本当にそう思った。
幼稚な独占欲だということも分かってる。
5歳のあの日以来、俺の精神は成長していない。
俺は秀人を浴室の壁面に押さえつけた。
秀人の背中に冷たい壁があたる。 俺の背中には暖かいシャワーの湯が降り注いでいる。
首筋に音を立ててキスをして、そのまま一気に薄く滑らかな胸へと降りた。
秀人の肌はしばらく掛かっていた湯で仄かに暖まり、柔らかさが増していた。
「そこも触られたよ」
舌の全部を使って舐めたり、舌先だけでチロチロとつついたりしてると俺の頭を抱いている
秀人の両腕に力が入り始める。
浅い呼吸が浴室に響く。
胸の尖端が舌の中で徐々に固くなって、小さな秀人の乳首でも指で摘み上げれるくらい
に立ち上がってくるのが、俺はとても愛おしい。
「でも、気持ち悪くて鳥肌が立った」