ぼくの夏休み  灰×灰シリーズ 


級友たちの盛り上がりのソースが自分たちであることなど全く知らず、
秀人は冷めたカレーを手にテントまで行くと、外から秀に呼び掛けた。
 
「秀、いい加減にして出ておいで。 みんな心配してる」
返事は帰ってこない。
 
「入るよ」
 
入口のシートを開けて覗いたテントの中は暗く、多少月明かりのある
外の明るさに慣れていた秀人の目には様子がまったく分からなかった。
目が慣れてくると敷き詰めたエアマットの中央で、
秀が後ろを向いて寝転がっているのが分った。
 
「秀?」
 
カレーをマットの上に置き、「いつまで拗ねているの? 寝ちゃたの?」と、
秀の身体を揺すった。
寝ているのかと思っていた秀は身体を起こし、秀人の首に腕を絡ませてきた。
 
「俺がこういう環境苦手なの知ってるのに」
「・・・・・うん、ごめんね。 意地悪だったね」
 
いーよべつに、と言いながら秀人の身体を引き寄せる秀は、
都会よりは格段に涼しい荒川の上流ではあるけれど、
テントの中で閉じこもっていたために少し汗ばんでいた。
 
秀人は抱きついてくる秀の身体から、防虫スプレーの薬品臭と
汗に交じる秀の匂いを感じていた。
 
「腹減ったな」
「カレー食べなよ」
「そんな冷めたものいらない」
 
秀人の羽織られたシャツの下のタンクトップに秀は手を滑らせる。
 
「秀・・・・きっと櫻澤さんが様子を見にくるよ」
「どうしてそう思うの?」
「そういう人じゃない、櫻澤さんって?」
 
いーよ・・べつに。
秀はただ繰り返す。
 
「僕はよくない」
「どーして?」
「入口だってネットだから外から見える」
「案外見えないもんだよ」
「聞こえるよ」
「何が?」
「何がって、声」
「俺はあげないもん」
 
だから秀人もあげちゃ駄目だよ
 
そんな無茶を言う秀なのに、キャンプに無理やり連れて来てしまったことと、
昼間の秀には気の毒なことをしたと思う負い目から無碍に拒めない自分は、
櫻澤にも言われたのだがやっぱり甘いなと秀人は思った。
 
思いながらも、秀人の少しカレーの味がする舌に吸いつき、
「温かい」という嬉しそうな秀の声にほだされる情けない自分を
秀人は諦めてしまうのだった。
 
小さくため息をついた秀人に秀が暗闇で無邪気に破顔した。
 
外の明るさはほんのりとテントの中に入り、二人の輪郭を照らす程度である。
だが、明かりは秀には必要がない。
秀人の身体のどこも秀の指は覚えている。
そして、その時秀人がどんな表情をするか、秀には簡単に想像がつくからだ。
 
秀人の身体を秀の生暖かい舌と熱を持った指が追い詰める。
そうこうしているうちに、
こんな状況に置かれても秀人の身体の奥はちゃんと疼きだす。
 
たまらなくなって、「しゅう」と囁く。
わけ入ってくる秀。
この瞬間はいつも苦痛なのだか快感なのだかわからない。
ただ、次に必ずにやって来る快楽に、
聞こえないくらいの声を上げるだけでいられる自信は秀人にはない。
 
「あぁ、だめ。声が聞こえちゃうよ・・しゅう」
「大丈夫だよ。どうせ酔っ払ってて来たりしないから」
「あぁ・・しゅ・・・・・ん」
よく知っている秀人のたまらない処を突いて、秀人にか弱く声を上げさせる。
 
「我慢しなくてもいいのに」
 
だけど本当は、秀人が声を上げることを一生懸命に堪えているのがいい。
可愛くてぞくぞくする。
昼間に起こった嫌なことだって、
こんな秀人を抱けるのなら大したことじゃない。
 
「う・・・しゅう、もう僕」
 
腕を掴む秀人の指が少しきつく喰い込み初めて、
思いっきり声を上げることができないなら早くイカせてとでも言うように、
「おねがい」
と喘ぐ秀人に満足する。
 
くすっ
 
思わず笑みが零れる、弾ける前にもう一度、秀人の開いたままの唇をふさぎ、
その舌に吸いつこうと顔を寄せると、
 
「しゅうっ」
 
秀人が小さく、だが鋭く囁いた。
 
「なに?」
「誰か来る」

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