ぼくの夏休み  灰×灰シリーズ 


総勢10人の男の腹を満たすのに土鍋の米だけでは到底足りない。
櫻澤は車から飯ごうを3つ取り出してきた。
 
「My飯ごうだ」
 
飯ごう炊さんなんてどうやっていいのか覚えていない。
級友たちがやる男所帯のキャンプの食事なんて、
適当にコンビニで買ってきたカップ麺や弁当だ。
食べることより、野営というその雰囲気を楽しむようなものである。
土鍋の白米と寸胴鍋で煮込まれているチキンカレーを覗きながら
級友たちは言った。
 
「相変わらず手が凝ってる。 
でも、キャンプなんてカップ麺で充分だよ」
 
「お前らさもしい食生活送ってるんだな。 
こんな何もないところでの楽しみっていったら喰うことしかないじゃないか。 
ここまで来てそれこそどうして、忙しい都会生活の隙間で食べるような、
ただ空腹感を満たすだけの味気ないものを食べなくちゃならないんだよ」
 
案の定、先ほどは櫻澤への当てつけに100歩以上譲って級友たちに労いの
言葉を掛けた秀だが、秀人が用意する食事のありがたさを理解しない彼らに、
今度は毒舌で噛みついた。
 
「なー、食の楽しみを知らないなんて、
此奴ら本当に寂しい奴らだよなー、秀人ー。 
こういうところで如何に工夫して美味いものを食べるのかっていうのも、
キャンプの醍醐味なんじゃないのかー?」
 
櫻澤から飯ごうを受け取り、
米や水の量り方を教えてもらっている
秀人の背後に秀はぴたりと寄り添うと、
「暑苦しい」と秀人に言われようが
お構いなく、
これ見よがしに両腕を腰に回し、肩には顎を載せ、
級友たちに向い更に言い詰めた。
 
「飯は秀人に任せるよ。で、山でキャンプっつったら川だろ?
秀、川で泳いだことなんてないだろ? 秀人も後で来いよな」
 
級友たちも秀に対して表情を変えることも、
売り言葉に買い言葉のように言い返すこともないところをみると、
秀のこういう言い回しには幾分か慣れているようである。
 
 「僕は遠慮するけどみんなと一緒に川に入ってきたら?」
「俺も遠慮する。 馬鹿5人とはしゃぐより秀人と飯つくってるほうが楽しい」
「もうご飯炊くだけで他に何もすることないよ」
 
「秀君には飯ごう炊く木枝でも拾ってきてもらおうかな!」
 
しかし、タープの傍らで石を積み上げ、飯ごう炊さんをするためのかまどを
級友の兄たちと作り始めていた櫻澤が、
全く周りとの協調を欠いて秀人にじゃれつく秀の独走ぶりに、
キャンプの目的を示そうと声を上げた。
 
「どうして俺?」
 
どうして俺?と聞き返されるとは全く思っていなかったよと、
なおも秀人にじゃれつく秀に小声で呟く櫻澤に、
石を重ねながら「同感ですよ」と小声で小宮山が返した。
 
「じゃ、私が秀君と一緒に行ってきます」
 
櫻澤たちの傍らで笑いを堪えていた堀が秀に向かって言った。
秀はあからさまな拒否反応を見せた。
しかし秀人に、「秀だけ何もしていないんだから行っておいで」と言われ、
尚かつ、「やれることがない秀にでもキャンプに参加させようと
出来ることを見つけてくれる櫻澤さんって大人だな」などと。
秀にしたら豆腐の角に頭をぶつけても怪我をしそうな、
そんな柔和な考えに自分では到底及ばない秀人の思考回路に
軽く目眩(もちろん可愛くて)をしながら、
もう一度全身に防虫スプレーをふりかけ、
仕方なく虫の巣窟へと木枝を捜しに行ったのである。
 
「おーい! 川の深みに気をつけろよ! 川は急に深くなるからなー!」
 
櫻澤は、遠くで少し小高い岩場から大声を上げながら
川に飛び込んでいる双子の級友たちに叫ぶと、
背中からやる気のなさを存分に漂わせた秀の後ろ姿を見送った。
 
「高校生ってガキだな。 疲れる。 
秀人君のカレーとビールが唯一の楽しみだ」
 
かまど作りの作業を続けながら呟く櫻澤に、
「同感です」とやはり小宮山兄が呟き返した。

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