ぼくの夏休み  灰×灰シリーズ 


少し上流に掛かる橋を渡り、山道から外れ木立に入る。
5メートルも歩を進めれば、日差しが枝葉にさえぎられ、
ひんやりとした空気が身を包む。
種火になるような細い小枝と火力をつける少し太めの枝を拾ってこい
と櫻澤には言われた。
コンロで炊けばいいじゃないかと言うと、
飯ごうで炊いた飯を喰わずにキャンプとは言えないと力説された。
 
おっさんの暑苦しさに拍車がかかるのを見るのも鬱陶しいので、
秀はそのまま素直に引き下がった。
秀人に「行っておいで」と言われたことも手伝っている。
それに、あのまま櫻澤にたてつくことを続ければ、
秀人の機嫌が悪くなることも予想がついた。
 
だけど、これは予想外だった。
 
「どうして堀さんがキャンプに来るんだよ」
「仕方ないでしょー、屋代から頼まれちゃったんだから」
「俺、堀さんが来るって分かっていたら来なかったのに」
「知っていたら秀人君だけ寄越した?」
「そんなオオカミに羊を差し出すようなことするわけないよ」
「おーかみって?」
 
「さりげなく俺の腰に腕回して、ベルトに手を掛けてるケダモノ」
「あらー、秀ちゃんったら随分と敏感になったのねー」
「お陰さまで」
 
秀は肩と腰に回った堀の手を払いながら、櫻澤に言われた枝を拾い集めて
さっさと秀人のところへと戻りたいと思っていた。
堀には一時、一方ならぬ世話になったことがある。
だがそれは、お互いの感情が伴うようなものではなく、
要するにお互いの利に叶った後腐れのない関係であった。
秀にすれば堀は、いつも顔を合わせる級友の兄以外の存在にはなり得ない。
堀にしたって秀はそうであるはずだ。
 
それをこんな具合にいきなり会って、二人っきりの状態で、
昔のことを蒸し返すような下手な冗談で絡まれたくなどないのだ。
相手にするのはおろか、絡まれて適当にかわすのさえ面倒くさい。
 
黙々と木枝を拾う取りつく島もない様子な秀に、堀もからかい甲斐がないのか、
「相変わらずだねー」と笑うだけで、それ以上は絡んではこなかった。
 
だが、大方木枝を拾い集め、さて戻ろうかという時になり、
秀の後ろを歩く堀は、
 
「しゅう」
 
と、呼び掛けた。
堀のいつもの調子とは違う真剣な声色に一瞬ギクリとした秀は、
立ち止まり堀に振り向いた。
 
「ごめんね秀」
「何が?」
「本当はもっと早く言おうとずっと思っていたんだ」
「な・なにを?」
 
堀は持っている木枝を片腕に抱え、ゆっくりと秀の方へと近寄る。
その堀が、秀には見たこともないほど深刻な表情であったため、
警戒はするもののその場から動くことができずにいた。
 
「今更こんなことを秀に言う僕を許してくれるかな?」
「・・・やだね。 何か知らないけど聞きたくないよ」
「そんなこと言わないでよ」
 
秀は堀に腕を捕られると簡単に引き寄せられた。
どう鍛えているのかは知らないが、
秀より上背が軽く15pは超え、既に大人な身体に出来上がっている
堀に捕まっては、秀もやすやすとは逃れられない。
 
「秀、聞いて」
「馬鹿堀! 放せ」
「本当はずっと」
「五月蠅い!」
「君の・・・」
「聞きたくない!」
 





「背中にでっかい蜘蛛が張り付いているんだけど」


「え?」
 


虫嫌いな秀は、中でも特に蜘蛛は大嫌いだ。
蜘蛛の身体の模様が綺麗だという秀人に付き合って、
教育テレビで蜘蛛の特集を見させられたとき、
自分の身体よりも大きな昆虫を捕らえ、頭からメリメリと食べる蜘蛛の
映像を見、2日間食欲が失せたことがある。
 
 
「う・わ〜〜〜〜! やだ! とって堀さん!」
 
 
そして、先ほどまで堀に対して腰の引けていた秀は、
蜘蛛をとって欲しさに堀の懐へと飛び込んだ。
堀は抱えていた木枝を置き、両腕を秀の背中へと回すと、
 
 
 
「もう、秀ちゃんったらちゃんとご飯食べてる? なんて細い身体してるの!
相変わらずしなやかで少年みたいで、いつまでも可愛い身体してるわねー」




 
秀の背中と言わず腰と言わず、果ては尻まで撫でくりまわした。


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