SEVENTH HEAVEN 


しかしこの『SEVENTH HEAVEN』は、90年代より本格的に始まったイタリア政府の反マフィア政策にもかかわらず、根強く島民の指示を受けているばかりか、官憲にまで信頼を得る政府外政府として機能するという、古き良き時代のマフィアの面影をいまだに固持している。

マフィアは長い間外国勢力に支配されてきた体制から抜け出せていないシシリーの歴史的産物である。
汚職まみれの政府を市民が信用せず、「オメルタ」と呼ばれるマフィアの沈黙の掟とドンによる血と暴力の支配を、ある意味市民が信頼しているというシシリー体制がまだ残っているからだろう。
長年マフィアと政府との癒着をテーマに世界中でルポルタージュしてきた櫻澤にとって、このシチリアは聖都でもあった。
 
そして、

「そんな血なまぐさい組織を束ねる女神さんとやらに会ってみたい」

女性のボスがいないわけではない。
そして、マフィアはシチリア島だけの現象でもない。
パレルモを含むイタリアの犯罪三角地帯の一つナポリには、「カモッラ」と呼ばれるマフィア的勢力がある。※もう一つはレッジョ・カラブリアの「ヌドラゲンタ」

この「カモッラ」の世界では女性が幅をきかせている。
中でもマレスカ=アンマトゥーロファミリーの「マダム・カモッラ」(通称プペッタ・マレスカ)はよく知られる。
79年に再逮捕されたラッファエーレ・クートロの姉、ロゼッタも、クートロの陰に隠れてカモッラを統治していた。

だが、シチリアは「名誉ある男」であることを大切にする。
封建的な社会での家父長的家族制度の上に成り立ち、名誉ある男であり続けることに価値観をおいている。
そんなシチリアでは女性のボスは本来考えられないことなのである。
 
世界中の組織を追っている間に浮上してきた『SEVENTH HEAVEN』
彼らを信奉する島民の間ではその名前は滅多に口にされない。
その身体で守るかのように楽園の島(シチリア)にとぐろを巻き、外敵に鋭い牙を剥いた威嚇している蛇の姿で表される。
そのドンが女性であるということに、櫻澤は興味を引かれた。
 
長い年月を掛け、自分の情報網の全てをフル稼働しHYDEの姿を追い続けた。だが、彼女はその間にもほんの欠片でしか掴めない女であった。
そしていつしか、櫻澤は恋愛にも似た憧憬の感情を彼女に対して持っていることに気がついた。
 
が、

「で、わざわざ表にいる俺の部下たちを半殺しにして、遠隔地の日本からここに来たお前の目的はなんだ?」
「日本語が話せるのか?・・・・って、お前男かよっ!!!!!」
 
周りにいた男達が櫻澤に向かって一斉に銃を向ける。
 
HYDEはそれを片手で制すと、緩慢だがスキのない仕草で立ち上が、ゆっくりと櫻澤のほうに歩み寄った。
櫻澤の前に立つHYDEは、やはり櫻澤がイメージするマフィアのボスとはかけ離れたものだった。
 
ちっせー。 それに細い。 
なんでこれが男なんだよ。
これじゃ『女神』なんて噂が立つのも仕方ねぇな。
しかも随分と若いじゃないか。
色っぽいねーちゃんどころか、まだガキって感じだ。
俺一体何の為に苦労してココまで来たんだよ。

HYDEは項垂れている櫻澤に近づくと、人差し指でその顎を上げさせた。
そして、眉間に皺を寄せている櫻澤を、少し懐かしむような微笑みで見た。


 
「日本は俺の母の国だ。 母の顔は知らないがな。
 お前はなかなか肝が据わっている。 見かけによらず腕も立つ。
 それに何年もかかりながらも一人でココまで辿り着いた。
 頭も回るようだ。
 なのに少々間抜けなところもあって面白い」
 
「そりゃどうも」
 
「後で俺の部屋に来い。
 日本のことをもっと聞かせろ。 日本は春夏秋冬、季節というものがある。
 そしてその時々に咲く花も違う。
 人々の気性は穏やかで、女・子供がとても大切にされている。
 銃を持たず自由に外を出歩き、身の心配をする必要もない。
 よく母が父に楽しそうに話していたそうだ。
 日本は俺の憧れの国でもある」

HYDEはそう言うと踵を返し、黒服の男の一人に櫻澤を客室に案内しろと指示をした。

「それから、ココに来た理由もじっくり聞かせてもらう」

部屋を出る間際にそう言われ振り向くと、カウチに座ったHYDEが取り巻きの男からシャンパングラスを受け取り、そのグラスに琥珀の液体を注がれながら妖しく笑っていた。

 

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