SEVENTH HEAVEN 


その夜、櫻澤は、客室で豪快なパレルモ料理に舌鼓をした後、『SEVENTH HEAVENの女神』HYDEの部屋に呼ばれた。   
しかし、客間からHYDEの部屋に行くまでには幾本かの階段を昇ったり降りたりさせられ、容易にそこに行き着くことができないようであった。

建物内の大小の回廊は曲がりくねった廊下で繋がれ、その廊下には多くの行き止まりが造られていた。

また、階層が巧みに交差されているため、歩いている間に間隔が麻痺し自分が今何階にいるのかが容易に把握できない。

そうやって櫻澤が最終的に辿り着いた『SEVNETH HEAVEN』の拠点は、驚いたことに14世紀に建てらた修道院の中にあった。曲がりくねった廊下や、複雑な階層は19世紀になされた改修時の時のものらしい。不慣れな者には案内人にでもついてもらわなければ、自由に建物の中を行き来することはできないようになっている。
 
後期バロック様式で陽気なイタリアの印象を思わせるオレンジの正面壁は、とてもここがマフィアの所在地だとは思えない。
内部には華麗な装飾の礼拝堂があり、修道士たちが生活している僧室が整然と並んでいた。
外観はイタリアで普通に観られる修道院である。

そこにいるのが本物の修道士なのかどうか定かでないだけだ。 いや、ここは本物の修道院であり、本物の修道士もいる。
『SEVENTH HEAVEN』がその中で身を潜ませているのである。
まさしく、神のお膝元に。
しかし、神の領域から『SEVENTH HEAVEN』に行くには、奥まった場所に設置された何の変哲もない入口の扉を押せばいいだけであった。
 そして櫻澤は、そのSEVENTH HEAVENの更に中核に繋がる扉を前にして、ココに来た本当の目的をどう説明しようかと悩んでいた。

 
扉の向こうには、自分が長年追い求めてきたものがある。ここまできたのだからこの先のことがどうなろうと、それなりの覚悟はできている。
櫻澤はひとつ深呼吸をすると、ファティマの手を象ったドアノッカーを響かせた。



 
扉を開いたのはHYDEだった。てっきり黒服の男の誰かが付いているものだと櫻澤は思っていたが、部屋にはHYDEの他に誰の姿も見られなかった。
HYDEは櫻澤を部屋に通し、深々としたソファを勧めると、自らが上等なワインを彼に注いだ。
ソファには深紅のベルベットが敷かれ、足元には分厚いペルシャ絨毯。石壁にはバロック様式の彫刻が蝋燭の灯りで照らし出され、壁に長短な影を浮き立たせていた。

HYDEの表情は昼間のふわりとした雰囲気とは一変していた。
まるで鎌首もたげた蛇が睨み付けているかのような眼光の彼に、櫻澤はココに来た本当の理由を、冗談ごとで済ませるにはもはやできないことを思い知らされた。
 トロリとした紅ワインを喉に流し込むと、HYDEは櫻澤よりも先に口火を切った。


 
「お前をあの時殺してしまっても良かったのだがな。
 こんなところに見境もなく単身で飛び込んでココまできたお前のこと、殺したとしてもその際にこちらも多少の痛手を受けただろう。
 最悪1人くらいは死んでいたかもしれない。
 俺は、あの3人のうち誰一人としてお前のような奴のために失うつもりはないからな」


客室に通された際にボディーチェックを受け、保身を図るものは全て取り上げられているとはいえ、当のHYDEも丸腰だという。
成る程、マフィアのドンとして最大の敬意を払っているのだから、そちらも誠意を見せろということなのだろう。
 
が、しかし、
 
「お前の本当の目的を知りたい」
真面目な顔で迫るHYDEに櫻澤は困った。

「リーナか、それともプロベンツァーの野郎か?」

違います。

「ファルコーネやボルサリーノ検事の暗殺の件ならお門違いだ」

マジだな、どうしよう。

「・・・・・なんだ? 聞きたいことでもあるならはっきりと言え」

櫻澤の煮え切らない表情にイラつき始めたHYDEが、怪訝そうな顔で聞いた。

じゃ、遠慮なく・・・と、尻の半分が埋まりそうなソファの上で櫻澤は居住まいを正した。


 
「アンタ、本当に男なの?」
「・・・・・・・・・・俺の身体に直接聞いてみるか?」



え? 
・・・・・・・・・
えーー?