雪の足跡


『さくら、抱っこして』
 
しばらくすると、はしゃぎ疲れたチビhydeが、細い腕を広げてすり寄ってきた。
チビhydeの頭に降り積もった雪を払い、コートのフードを掛けてやり、
サクラおじちゃんは小さなチビhydeの身体を抱きかかえ、
彼のことをぎゅっと抱きしめた。
 
それから、数歩歩いたところでチビhydeはサクラおじちゃんの耳元で言った。
 
『さくら 後ろ見てー、足跡がひとつになってる』
 
マンション近くの路面には行き交う人の姿もそうそうなく、
抱き直したチビhydeの指さすほうを見ると、
なるほど、チビhydeを抱き上げる前までは彼の小さな足跡が
サクラおじちゃんのそれの周りに点々と散らばっていたのだが、
今は自分の足跡ひとつだけが、路面にうっすらと積もった雪の上に
消え入りそうな跡を残していた。
 
『すごーい すごーい おもしろーい』
 
何がそんなに凄くて面白いんだか、サクラおじちゃんにはさっぱり分からない。
だが、
 
『どーしたの さくら?』
『なにが?』
 
『泣きそうな顔しているよ? はいど、そんなに重いの?』
 
チビhydeにそういわれて、サクラおじちゃんは初めて自分の胸がぎゅうと
締め付けられるほどの痛みを感じていることに気がついた。
 
『ううん、はいどはちっとも重たくないよ』
『さくら だいじょーぶ?』
 
チビhydeの小さな手が、サクラおじちゃんの頬を暖める。
自分のことを心配してくれるチビhydeに愛しさが増す。
そして、胸の痛みもなぜだかさっきより増して、
サクラおじちゃんはここぞとばかりに、チビhydeの小さくて薄い胸に
顔をぎゅうぎゅうと埋めた。
 
『さくら さくら。 もう、はいどのこと抱っこしなくてもいいよ』
『えー、もうちょっと抱っこさせてよ』
 
チビhydeの細い両腕がサクラおじちゃんの頭を抱いて、
その手が頭を撫でてくれても、
チビhydeが「いたい」と小さな声でサクラおじちゃんに言っても、
サクラおじちゃんは、チビhydeを抱く腕の力を緩めるなんてことができなかった。

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