2008年版真夏のホラー


バスルームは更に最悪だった。
ホテルは高層ビルの密集地に建っている。
全面ガラス張りの浴室のように、
外部に肢体を開放させながらの入浴には無縁な浴室設計だ。
密閉された空間はさらに息苦しいほどの蒸し暑さだった。
 
少し低めのシャワーを浴びると身体から熱が去った。
ホッとする。
乱暴に頭を搔き毟って顔をシャワーに晒す。
泡が身体を伝い、足元に落ちていくのを感じた。
 
背中と左足のふくらはぎに微小な違和感があった。
足を見たら髪の毛が一本絡みついていた。
シャワーを当てて洗い流した。
流れていく髪を見て、
ちょっと自分のものにしては長いんじゃないかと思った。
けれど、疲弊した頭でそれ以上面倒なことは考えたくなかった。
 
流れていく髪の毛の先を目で追ううちに、
足元にシャワーで流した水が溜まっているのに気がついた。
排水溝は自分の背後に設置されいた。
変った造りだ。
振りかえって見たそこには真っ黒な髪の毛が絡まり、
排水の邪魔をしていた。
 
うそやろぉ~~~。
空調の調子が悪いだけでなく、清掃も行き届いていない。
これはチェックアウトのときに、
いや、シャワーを浴び終えたら大いに文句を言ってやろう。
言う権利がある。
だが、それをするにはまずこの髪の毛を取り去り、
足元に溜まったボディーシャンプーの泡を流さなくてはならない。
 
親指と人差し指で髪の束の端をつまみ上げると、
排水溝に絡んだ髪の毛が長く糸を引いたように抜け出てきた。
明らかに自分のものとは違う、真っ黒で長い髪の毛の束。
 
 
おぞましいものに触れてしまった気がして、
うわー、いやーーーー!と騒ぎながら指先からソレを早く放そうと振り回した。
 
指から離れた髪の毛は、ぱしゃりと浴室の壁にぶつかりへばりついた。
へばりついて平たい塊のまますすーっと下に落ちていった。
急いでシャワーを止め、
濡れた身体にバスローブを引っ掛けて浴室から飛び出した。
 
部屋は相変わらず生暖かく、わずかに甘ったるいような香りが立ち込めていた。
一気に疲れが押し寄せ、そのままベッドに倒れこんだ。
ベッド脇に設置されているフロント直通の電話へ手を伸ばした。
そこで記憶は途切れた。