2008年版真夏のホラー


それからの数時間は地獄と天国の境目を行ったり来たりという感じだ。
 
訳のわからないその感覚は、だんだん身体中を覆い始めた。
髪がうねる中に放り込まれたようだった。
いや、もうその時には、自分の身体を這いずりまわるものが髪の毛であると、
理解しがたい事実を理解していた。
そして恐ろしくて目は開けられないでいた。
 
首や脇腹や内太腿を同時に撫でられる。
耳に入りこもうとしてくるものさえある。
 
おかしな話だが、恐怖しても身体は反応した。
無理矢理感じさせられているようで更に恐怖を呼び、
更に感じた。
 
あかん、気持ええ。
怖いのに、気持ちええ。
なにこれ。
こんなん身体中されたらおかしくなる。
いつまで続くの。
どーなっちゃうの?
コイツに犯されちゃうの?
犯そうにもコイツはそもそもできないよな。
 
変なところで冷静な考えが浮かんで少し落ち着くことができた。
その途端、髪にザァーっと咥え込まれた。
そういう表現が正しいのか分からないが、
その時は、咥え込まれたという言い方が一番しっくりときた。
 
うわぁ〜〜〜〜と、悲鳴とも叫びとも言えないような声が出た。
咥え込んだ髪はねっとりとしていた。
そして髪はいやらしく身体中を撫で回わしていた。
 
いやだ
ゆるやかに送られるのは物足りない刺激ばかりだ。
こんな得体の知れないものに情けないけれど、
身体に火がつけられてしまった感じだ。
こんなのが続くようじゃ生殺しのようなものだ。
到底コイツでイケれるとは思えない。
 
もういやだぁ・・・やめてよぉ。
話が通じる相手なのか分らないのに、
思わずそんな泣き声が出た。
 
胸が苦しくなってきた。
吐息も漏れ始める。
少しでも波を掴みたくて、腰が動く。
訳の分からない状態で加えられるもどかしさに、
だんだん腹が立ってきた。
 
お前みたいなヤツが俺に触んじゃねーよっ!
ドス声利かせてやったら少しはひるむかもしれない。
いいようにされて腹立ちまぎれに怒鳴った。
身体を舐め回している感触が一瞬止まった。
それが、何かを考えているようで不気味だった。
 
その危惧は見事に的中した。
髪は屈辱に反して硬くなっている俺にますますきつく絡みつき始めた。
いたい、くるしい、はなせばか
は、何をされるのか分からない不安で声にならなかった。
 
そして次に俺は愕然とした。
縛られて張りつつある自分の先に、
こじ開けられるような鋭い尖った痛みを感じたのだ。
そんなことができるなんて思ってもいなかった。
まったく油断していた。
うそ、あぁ、さいあく。
 
尖った針のようなものはどんどん侵入してきた。
いつまで抵抗できるんやろ。
入れられる時はまだいい。
引き出されるときに我慢できるんやろうか。
しまいに、泣いて叫んで懇願する羽目になるんじゃないだろうか。
こんな、訳のわからん奴相手に。
 
自分の限界は自分が一番よく知っている。
あぁ! もう無理、入んない、やめて・・・・と言うまで突き刺されると、
相手は、ゆっくりと入れたものを引き出し始めた。
入れたり出したり。
何度も繰り返す。
あ・あ・あ・・・・
気が狂いそうな快感。
 
痛いけど気持ちいい。
でもきっと血が出てる。
 
泣き真似で相手を懐柔しようなんて余裕なんてない。
マジ泣き。
もうやだ、もうやだ、もうやめて。
もうはなして、もうイカせて、出したい、はれつする。
 
 
恥も外聞もなく大声で叫んだ。
その時、身体の上に大人一人分の重さを急に感じた。
驚いて目を開けると、
とぐろを巻く真っ黒な髪の毛の中から見つめる血走った眼と視線が合った。
 
叫び声が飛び出す直前に空気を吸い込むと、
身体のあちこちでのたうっていた気配が一気に消えた。
痛みと解放と恐怖が同時に訪れ、
突き刺さっていた快感が非情な速さで身体から引き離された。
そのまま声も出せずに失神した。