服従するは我にあり


「hyde? 飯持って来てやったぞ」
 
くるっと見渡すほどでもない部屋の広さ。
一見して部屋の主の所在は丸分かりだった。
hydeは、部屋に備え付けられた備品程度の机に突っ伏
していた。
 
「なんだ。 お前はやっぱり寝てるんじゃねーか」
 
あんなに手を焼かせてココに押し込まれたというのに、な
のにtetsuの気持ちも露知らず、hydeはいびきを掻いて寝
ていた。
 
「まったくたいそうなご身分だ」
 
自分に弁当まで持ってこさせやがって休憩時間が減るだ
ろが。
折角だからどんな間抜けな面して寝てるのか見てやろう。
そう思いながらhydeの正面に回り込んで、サクラはすこし
ギョッとした。
 
「アイマスク」
煌々とした電気の下で寝るのには、あっても邪魔にはなら
ないが、
「・・・・・手錠」
 
鉛筆を持った右手にはどこで見つけたのか、この部屋にで
もあったのか、おもちゃの手錠がはめられていた。
hydeはどうやらまた臨界点に近いところにいるらしいと、サ
クラは思った。
 
「hyde、昼飯だ」
ぐー
「起きろ」
ぐー
 
よく寝るなコイツ。
小動物は一日の大半を寝て過ごすから仕方がないのかも
しれない。
あーぁ、手首にワッパの痕がついちゃってるよ。
 
 
そうだ。
その時のサクラは、寝てる奴の瞼にセロハンテープを貼っ
たり、瞼の上にもう一個目を描いたりと、その程度の悪戯
のつもりでいた。
 
テーブルの上に置かれているhydeの右手。
テーブルの下にぶら下がっている左手。
左手と右手を後ろまで持って行く間にhydeが起きなかった
のも思えば不幸なことだった。
hydeの両手を無事にワッパ繋ぎにして暫く待つ。
 
 
 
「ん〜」
お、起きた。
 
サクラはなるべく部屋の隅へと身体を移動させる。
息を殺してその後のhydeの反応を楽しもうと構える。
 
「ん?」
「あ・あれ? なんで?」
 
ぷっ。
吹き出しそうなのを手で押さえて堪える。
hydeはしばらく動かない。
「アイマスク後ろ手に手錠」の状態で姿勢正しく椅子に座っ
ている。
どうせ、「俺、いつの間に手錠両手に掛けたんかなぁ?」と
でも考えているのだろう。
 
「お腹減ったなぁ。 何時やろ?」
 
ぶふーーー!
お・おま、その状況でその感想はねーだろ、普通。
 
「・・・teっちゃん。 ・・・teっちゃんに取ってもらお〜」
 
のろのろとhydeは立ち上がって、のろのろと出口の方へと
移動し始めた。
サクラは自分の眉間に皺が寄るのが分かった。
 
面白くない。
 
もっとパニクッてもらわなくちゃ面白くない。
teっちゃんにって何だ? お前はすぐにtetsu、tetsuってち
ょっと頼りにしすぎなんじゃねーのか?
 
机を避け、パイプ椅子に躓きながらhydeは自分の記憶の
間取り図を頼りに、部屋の出入口へとすり足で向かって
いく。
hydeが扉に辿り着き、後ろ向きで扉を開けようとした時、
サクラの身体は意思とは無関係に勝手に動くと、hydeの
両肩を掴まえ彼を入口近くに置かれていたソファに突き飛
ばしていた。
 
「え? ぁ、や・・わっ!」
 
誰もいないと思っていた部屋で、いきなり肩を掴まれ突き
倒されたhydeは、ソファに倒れ込むとすぐさま起きあがり、
ソファの上をいざっていくうちに壁に突き当たった。
 
「誰?」
 
顔の大部分を覆っているアイマスクでその表情は見えな
いが、口調と声の震えはhydeが感じている恐怖を表して
いるようだった。
 
「t・teっちゃん?」
 
どうしてこの状況でtetsuの名前が出てくるんだ?
というより、この期に及んでまだtetsuか。
訳の分からない苛つきがサクラを侵し始めた。
 
そんなにtetsu、tetsuって、tetsuだったらどーだってんだ?
 
hydeの近くに座ると、小さなソファはずんと沈んだ。
 
「teっちゃん、ふざけるのやめてよ。 怖いよ」
 
おふざけと思っているのなら、おふざけでもう少し恐がら
せてやろう。
 
サクラがそう思ったことも、サクラにとってもまたhydeにと
ってももうひとつの不幸だった。
 
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