客が引き、店の子たちもみな帰り、煙草を一本吸いきった絹子さんが
カウンターのハイスツールから腰を浮かした丁度その時、
店の扉を開けて小さな影が店内に滑り込んできた。
「なんだ。 この住所ってこの店じゃん」
「当たり前じゃない。 借金抱えてんのに他に部屋なんか借りれないわよ」
入ってきたのはhydeだった。
hydeが来るわけがないと思っていた絹子さんは、hydeに渡したもののことなど
すっかり忘れていたので、彼の姿を見てびっくりした。
hydeはがらんとした緋色のカーペットの店内を
まっすぐ絹子さんに向って歩いてきた。
絹子さんはスツールから立ち上がり、それ以上彼に声を掛けることをせず、
店の奥へと入っていった。
奥には六畳ほどの空間があり、そこに絹子さんの日常が詰まっていた。
ベッドと鏡台がそのスペースを占め、残りは衣裳が占拠している。
流石に鏡台は大きくて品のい代物だった。
「ひとつ嘘をついたの」
「なに?」
「ほんとのほうは教えてあげられないの。 だってアタシはおんなだから」
「うん、わかってる」
絹子さんの部屋に入ったhydeは、
まるで何度もこの部屋に訪れたかのようにコートを脱ぐと、
絹子さんのキラキラした衣裳の掛っている衣裳掛けにそれを掛け、
ベッドカバーを手でさっと伸ばしてベッドに腰かけた。
「それでいいの?」
「うん、そういうのちょっと知っとこーと思って」
絹子さんの顔を見上げて、hydeは目をしばたたかせながら言った。
絹子さんはベッドに脚を組んで腰かけているhydeの前に膝まづくと、
組まれているその足を解いた。
解いてhydeが店に来た時とは違う服でいることに気がついた。
hydeは肌触りのいい、よさそうなスーツに着替えていた。
絹子さんはますますhydeのことが気に入った。
それから、瞬き続けるhydeの睫毛がとても長いことにも気がついた。
ふっくらした唇に顔を寄せたら睫毛は止まってくれるかしらと
絹子さんは思った。
「ごめん絹子さん、俺、絹子さんのこと別に好きとかじゃないんだ」
なのにhydeは、絹子さんから身体を少し引くとそう言った。
「あら言ってくれるわね」
絹子さんは笑うしかなかった。