と、腹をくくっていたのに、
俺は膝下くらいの深さの処で座り込んでいるのに気が付いた。
「あ・あれ?」
全身びしょ濡れだけど、さっきの高波は何だったのかというほど
海面には静かな波が打ち寄せるだけだ。
ほっとしたのと同時に全身から血の気が引いた。
急いでサクラと繋がっていた左手を見る。
サクラッ・・・いない!
「サクラッ!!」
立ち上がり、辺りを見回す。
広い海の中で立っているのは俺だけだ。
目が沖合いのほうで黒い陰が浮いていないか探す。
青白い水面に月の光がキラキラとしているだけだ。
い・・いやだ
同じ場所にいたのに! 同じ条件なはずなのに!
どうして俺だけ波打ち際に打ち上げられて、
どうしてサクラはいないんや?
俺、いつサクラの手を離した?
「嫌だ! サクラ!」
サクラに連れられた辺りのところまで行き、
闇雲に海面に潜り目を凝らして見た。
夜の海の中は真っ暗で見通しが悪い。
そのうちに海水が目にしみ出す。
どうしよう、いない。
見つからない。
あぁ! どうしよう!
「サクラッ! ふざけてないで出て来いっ!」
だんだん長く息が続かなくなり、頬に熱いものが流れ始めた。
ゲホゲホと咳き込みながら、もう既に潜る体力もなくなり始めた俺は、
ただサクラの名前を叫び続けるだけだった。
「hyde!! お前、何やってんだよっ!!!」
いきなり聞きなれた叫び声が浜辺の方からした。
振り向くと、サクラが持っていた缶ビールを砂浜に放り投げ、
履いていた靴を脱ぎ捨てると、凄い勢いでこちらに向かってきていた。
俺は頭が混乱して、どう対応していいのか分からない。
俺・・・・お前のこと探していたんだけど?
呆然と海の中で立ち尽くす俺の手を取り、
サクラは来た時と同じくらいの勢いで砂浜に取って返した。
「サクラ?」
「何やってんだよっ! ビール買いに行ってる間に車からはいなくなっちまうし、
捜してもどこにもいねぇし、気が付いたらこの状態だっ!
そんなに泳ぎたかっうわっ!」
俺はサクラに抱きついた。
普段、絶対、こんなことしない。
しかも、真夜中の浜辺に男二人で熱い抱擁をぶちかますなんて
こっ恥ずかしいこと考えられない。
だけど抱きついた。
サクラの体温を確かめたかった。
温かかった。
「何震えてんだよ?」
まんざらでもないような声でサクラが聞く。
寒いわけでもないのに、俺の身体は震えていた。
「帰ろうよサクラ。 早く帰りたい。 お前んちがいい」
「俺んち?」
「お前んちがいい。 帰ろうよ、帰りたい、もう帰る」
停めてある車の処まで、俺はサクラの手を離さなかった。
水を吸った衣服が重い。
靴に至っては、「グシュッ グシュッ」と歩くたびに変な音を出していた。
車につくとサクラは後部座席に積んだままのタオルケットで
俺をグルグル巻きにして助手席に放り込んだ。
助手席に放り込まれた俺は、運転席にサクラが乗り込むや、
再びサクラの手を取った。
「離せよ。運転できねーよ」
いつにない優しい声でサクラは言ってくれるけど、
俺は手を離す気なんて更々ない。
「眠い」
真夜中の水泳は思いのほか俺の体力を奪っていた。
「寝ろよ。着いたら起こしてやるから」
「手・・・・・離さ・・・・・なぃ・・で」
暗闇に落とされながら、頭の隅っこで「仕方ねぇなぁ」と呟く
サクラの声を聞いたような気がした。
目を閉じながら考える。
身体は寝ている。 思考も?
これは夢なのかな?
あれは何だったのかな?
俺と砂浜で遊んだサクラは誰だったのか?
海の中にサクラに引っ張り込まれて、
考えられないような波が来て。
上を仰いだら波の向こう側に綺麗な月が透けて見えたんだ。
そう・・・・月が・・・・・
? 違う、俺が見たのは月だけじゃない・・・
あれは・・・何だったっけ?
そうだ・・・たくさんの・・・・
そう・・・すごくたくさんの・・・
手だ
そうだ! 思い出した。
あれは波じゃなかった!
全部人間の手だったんだ!!